[37852] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-15『盲目の新総督』 |
- 健 - 2017年11月20日 (月) 00時41分
パリへ進軍すべく、ブリタニア軍は集結していた。戦力の中核はライル、シルヴィオ、エルシリアの三人の軍だ。ルーカスの軍も前衛として参戦する。
作戦会議で真っ先にルーカスが名乗りを上げたのだ。確かに、ラモラックの火力は先陣を切るのには向いている。だが、ろくな結末が見えなかった。
先陣をルーカスとその旗下が切り、ライル達三人が中央、後方には本国の部隊が展開する構えだ。
「すぐに先陣が瓦解するでしょうね。」
ライルの冷めた分析にセラフィナも頷く。
「だが、裏を返せばE.U.が今まで通りならば奴の先陣が崩れたのを良いことにこちらの懐へ飛び込んでくれる。」
「それは…逆転の発想ですね。」
シルヴィオの分析にエルシリアが納得し、側近の木宮も頷くが………
「あっちは学習能力ないのかしら?」
「無いからここまで酷い有様なんでしょう?」
レイの結論でブリーフィングは終わりを告げる。全く、奴とその甘い汁に群がる連中は正直どうでも良いが、その尻ぬぐいをさせられるのはいつもこちらだ。しかも反省という文字が連中の辞書にはないから、尚質が悪い。
涼子は本国からライルが持って帰ってきた新型KMFを見上げていた。『ブラック・リベリオン』の後、機体に限界を感じたライルが機動力に長けたランスロットの系列で専用機の開発を検討した結果、先にロールアウトしたヴィンセントとそれを発展させた『ナイトオブテン』専用機パーシヴァルをベースに考案がまとまり、つい先日ロールアウトしたという。
「資料を見ただけでも凄いとは思っていたけど、本当に凄いわ。」
ペールブルーを基調としたボディのKMFはフォルムからヴィンセント…つまりはランスロットタイプの派生型であることは分かる。両肩にファクトスフィアを装備、更に胸部にハドロン砲を一門内蔵し、腰には大型のスラッシュハーケンが付属し、そのパワーはサザーランドの比ではない。両腕にもトリスタンのメギドハーケンをモデルにしたと思われる大型の武器、背中にも近接戦闘用の剣を搭載し、フロートユニットを標準装備としている。
「ヴィンセントのMVS搭載機能を流用して鞘の位置を下にしてフロートユニットの邪魔にならないようにしたのね。」
確かに、ランスロットやグロースターと同じ位置に剣をマウントすれば、フロートユニットを追加オプションとする必要がある。そうなれば当然機体の重量増加という問題を招く。あのランスロットも『特別派遣嚮導技術部』が発展した『キャメロット』で完成目前という新装備の資料をライルから確認したが、装備の詳細だけを見ても重量増加の運動性低下と追加兵装で機体のバランスが悪くなっているように見える。
「ランスロットでこれじゃあね……この機体をもっと改修するとしたら…やっぱり固定兵装化されてもフロートの重量ね。ブレイズルミナスを攻撃に転用したから…機動力向上に使えないかしら?ああ、でもランスロットでもフロートと装備でエナジー食ったからサザーランドとグロースターじゃ話にならないわ。ヴィンセントでもエナジーがもつのかどうか。」
「おい、機体の改修の前にまず目の前にある機体を万全の状態にするところから初めてくれ。」
メカニックチーフに言われ、涼子は改めて本来の仕事を思い出した。
「す、すみません!」
機体はロールアウトしたものの、肝心の主兵装となる槍の調整がまだ完全ではないし、試運転もしていないのだ。どんな不具合があるか分からない。
「ちゃんと万全にしておかないと。」
それにしても……これは本当に凄い。カタログの上ではオリジナルのランスロット以上だ………こんな凄い機体を弄らせて貰えるのならば、ちゃんとやらないと駄目だ。あの人のために……
ううん、優衣のために!
ライルが自分達の身体を目当てに買ったわけではないことはもう分かっている。あれから数ヶ月経っても一度も夜の相手を要求しない。そういう関係がありそうな有紗は勿論、クリスタルすらライルのために純潔を保っているという。いかにも身体を売ることを生業にしているようなタイプですらそうなのだ。
でも……まだわだかまりがある。父さん達のことで…
分かっている…彼が日本人、ナンバーズに対して悪意をもっていないことは……優衣に好きな人がいるのならば良いことだ。でも………涼子にとってはどうしても皇族という看板がついて回る。
「羨ましい…あの子が……」
「優衣のどこが羨ましいんだ?」
後ろからライルの声がした。慌てて振り返って礼をしようとするが、ライルが制する。
「機体の調整はどの程度だ?」
「あ、はい!実は……」
「機体に見とれた上にまた新しい装備や量産化の事を口走っていました。」
チーフに言われ、ライルはため息をつく。
「君のそういうところは好きだが、頼むよ?信頼しているんだから。」
「は…はい!」
そう…本気で信頼してくれている。だから……応えたい。そんな気持ちもある。あのまま貴族の夜の相手をさせられて飽きられれば捨てられるはずだった自分達を買って、丁重に扱って働く場まで与えてくれたこの人に………
ブリタニア軍のパリへの進撃が秒読み段階へ入った頃……エリア11の新総督着任の演説が放送され、ライル軍もそれを見ていた。側に枢木スザクが控えるが、それ以上に演説を行っているのはまだ14、5程度の少女…しかも。
「車椅子に点字の原稿……」
雛がつぶやき、長野も似たような反応をする。
「ウチの娘と大して変わらない年頃じゃないか……」
「あの人が…ナナリー・ヴィ・ブリタニア様。」
レイがその名を口にする。そして、今そのナナリーは「お願いします。」と頭まで下げた。
『ロンスヴォー特別機甲連隊』でもエリア11の新総督の演説に注目していた。そして、その第一印象に面食らった。
「『お願いします』、じゃないでしょ…」
「なんか…やりにくいわね。」
海棠が半分呆れてその演説を評価し、浅海もその第一印象で敵意を削がれる。
「いくら『ラウンズ』がいるといっても、よく本国が許したわね。あんな子が総督になるのを…」
クラリスも疑っていたが、池田はそれを分析する。
「いかに皇族といえど、眼と足の不自由な少女……双方の同情を誘えるな。」
「やはり、そこか……」
バルディーニもそれを肯定し、ゼラートは腕を組む。
大方、シュナイゼルあたりだろう。眼と足の不自由な可憐な少女が総督という激務に臨む……民衆の同情を誘うのにこれほど有効なカードはない。ゼラートでもそうするし、テロリストの立場だったら人質としても目移りがいい。
しかし…ナナリー総督は就任に伴って『行政特区日本』の再興を宣言し、ユーフェミアと同じく『黒の騎士団』にも参加を求めた。
「ナナリー……なんてことを。」
以前、母親同士の関係で折り合いがよくなかったエルシリアも流石にこれには頭に手を当てる。セラフィナも「無理よ。」と否定する。
「素人なのを抜きにしても……これはないわね。」
木宮も酷評するが、シルヴィオもこれは弁護出来ない。」
ウェルナーもナナリーの演説を聞いていた。だが……
「無理だよ、ナナリー……もう『行政特区』は罠という印象しか残っていない。」
只でさえ日本人に好意的に思われたユーフェミアが罠を張ったというレッテルまで着いているのだ。成功するはずがない。
演説後、『黒の騎士団』ではナナリー総督の特区構想を皆が信用していなかった。当たり前だ。あの事件からまだ一年程度しか経っていないのだ……信用しろというのが無理だ。
「扇さん…あの総督、どうなんでしょう?」
ゼロ復活後…合流が適ったラルフは扇に質問する。いつもは温厚な扇も流石に今回は険しい表情だ。
「僕は……あの総督のことまだよく分かりませんけど、そういうタイプには……」
「そういうタイプに見えないユーフェミアがあんなことをしたんだ。保証は出来ない。」
「ですよね……仮に、シロだったら?」
「シロだとしても、日本人は賛同しないだろう。」
それもまた正論だ。そういえば、とラルフはゼロがしばらく連絡をしてこないことが気になった。
「ゼロからは連絡はないんですか?」
「ああ。」
「何言ってんだよ、ブリタニアとの決戦に決まってるだろ!ゼロに…」
他の団員が決戦を主張するが、ラルフは意見する。
「この前の作戦でKMFが紅蓮しか残らなかったのでしょう?それに、前の総督の政策でこのエリア全体を見ても反対勢力はボロボロです。ゼロだって神様じゃないんですから……僕達でも何か考えないと。」
だが、突然他の団員達がラルフを睨み付ける。
「おい、何言ってんだよ。ゼロはあれだけの奇跡を起こしたんだぞ?」
「そうだ!今更反抗が怖いなんて言うのか?」
「違います!!僕が言いたいのは……ゼロに何でも押しつけて、万が一のことがあれば前の二の舞だと言っているんです!!」
それは流石に効いた。何しろ、ゼロが突然現場を離れたことで敗北してしまったのだ。その結果、つい先日処刑されるところだったのだ。そして、ラルフは一年間潜伏を続け、ゼロ不在の団員達を宥めながら活動した経験則を確信した。
本当に…みんなゼロに何でもかんでも任せている。これじゃあ、戦力が整っても意味がない。本当に…ゼロに代わって組織のリーダーを務められる人が必要だけど……いるの、そんな人?
会議室で演説を見終えたライルも思わず、右手で両目を覆う。
「ナナリー……就任早々なんて失敗を。」
「『特区日本』って、まさかまた!?」
涼子がその可能性を口にするが、優衣が「お姉ちゃん!」と窘める。
「も、申し訳ございません!」
「…いや、涼子の疑念が普通なんだ。『特区日本』自体がエリア11でタブーに等しい……」
そう、ナナリーは就任早々で政策に失敗してしまったのだ。ユーフェミアとて地道に信頼を積み重ねて『特区日本』を設立したのだ。
「『虐殺皇女』なら俺も参加したいが、いくら魔物共でも二度目は通じないだろう。」
「畑方…口を慎め。」
ゲイリーが咎め、デビーがライルに質問する。
「ナナリー様はユーフェミア様やライル殿下と仲がよろしかったそうですね?」
「ああ……彼女が住むアリエスの離宮にセラフィナやウェルナーと一緒に泊まりに行ったこともある。」
あの頃は、本当に楽しかった……まだ健康だったナナリーはお転婆で、ルルーシュを困らせていた。ウェルナーがナナリーの隣で寝たいと言ったら、ルルーシュが不機嫌になったこともある。
ナナリー……僕もユフィも、君も………全部昔通りには行かないんだよ。
そう、ナナリーにとってライルもユーフェミアもあの頃までしか知らないのだ。
「…日本出身者の君達には悪いが、ナナリーにああいうことをしようという狙いはないよ。断言出来る。」
「…お言葉ですが、そういう印象のユーフェミア様は?」
長野は敢えて客観的な疑念を質問する。だが、ライルは今回ばかりは長野を睨み付けた。
「あり得ない……大体ユフィだって私はまだ信じられないんだ。ゼロが何かしたとしか思えない。そうでなければ説明がつかないんだ。」
「ライル様…」
そう……コーネリアは勿論のこと、スザクやナナリーだけではない。ギルフォードやシュナイゼルだって彼女の潔白を信じている。
「私も…ユーフェミア様……ユフィを信じています。」
テレサの発言に全員が注目する。同時にライルは驚いた…彼女を愛称で呼ぶとは。
「本国にいた頃、姉はユフィと同じ学校にいたんです。姉は中退して軍学校だったんですけど……副総督の頃もよく電話やメールをしていて、私も何度か会ったんです。」
「驚いた……君の姉のメイフィールド卿がユフィと同じ学校に…」
「一年足らずでしたけど…自然と気が合ったんです。『特区』の時も良いことがあったみたいだから……」
それならば、確かにテレサも彼女を信じるのも頷ける。彼女が学生だった頃の友人達ですら今は彼女を忌避しているという。そのスタンスを貫くだけでも酷なはずなのに。
「殿下、仰りたいことは分かりました……しかし、エリア11でナナリー様の特区にゼロがどう動くかも。」
「ああ…兄様が講和の準備も進めている……こちらも向こうがその気になるようにたたみかける。」
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