[37837] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−6 足掻く者達』 |
- Ryu - 2017年11月18日 (土) 09時41分
−E.U.フランス州 オルレアン市『ロンスヴォー特別機甲連隊』本部 外人部隊用駐屯場所−
方々からの様々な視線を浴びつつも、ゼラートとその付き添いで付いて来たアレクシアとイロナの3人は、やっと自分達に宛がわれた駐屯場所に到着した。そこには各隊員のKMFや独自調達したトレーラー群が所狭しと並べられている。
基地の内部どころか外部であり司令部から最も遠く、周辺には何も無い最早悪意しか感じられない場所である。唯一の利点と言えば、街とは真逆の方角に位置している為、街に繰り出す正規軍の連中を見かける事はまず無い事ぐらいか…。
正規軍は基地内にいるのに対し、外人部隊は基地外に留められている。前者は宿舎があるのに対し後者は何も用意してなければ最悪KMFの中で寝なければならない。少なくとも野晒しで寝るよりは遥かにマシだからだ。
色々不満はある、と言うか不満しかないがそれでも正規軍の連中が全くいない、ある意味一番安心できる場所に入ったからか、それまで耐え続けていたイロナが我慢できずポロポロ泣き出し、それでも声はあげまいと押し殺すような嗚咽が漏れ出ている。
「……中佐……悔しいよ……あたし達、あそこまでコケにされて……それでもあんな奴らの為に……死ななきゃいけないの?」
そんな彼女を見て、アレクシアが静かに呟いた。その声は常に朗らかな彼女らしくなく震えて悲痛さに満ちており、その言葉は本人のみならず、ある意味外人部隊全体が抱いているであろう本心を現していた。
「……冗談では無いな。俺の命はあの様なゴミクズ共を満足させる為に存在しているのでは無いし、まして俺の誇るべき部下達の身代も奴らの自由にさせてやる程安い物じゃ無い」
「……中佐」
ゼラートは吐き捨てる様に呟き、ただでさえ険しい目がいつになく険しくなっている。最早直視出来ないレベルの眼光である。
「……アレクシア、明日からはしばらく働き通してもらうぞ。だからイロナ連れてさっさと寝ろ」
「……了解。さ行こ?イロナ」
アレクシアは膝を抱えて顔を隠しているイロナを立たせて、自分達のトレーラーへと一緒に脚を運んだ。ゼラートも本人専用のトレーラーへと歩き出す。
とりあえず明日起きたら久々の仕事だ……ヴァイスボルフ城の時は諦めざるを得なかったが、ざっと簡単に調べた結果この基地なら簡単に事を進めるのは可能だろう……軍基地としてそれはどうなのかと思うが。
充分ヤバい事をやっている自覚はあるがそれがどうした。それぐらいしなければ生き延びるなんて到底覚束ないし、何も情報を貰えず何も知らないまま戦うなんて論外だ。貰えないのなら自分達で入手するまで…それは何も装備とかに限った話では無い、今までもそうだった。
まずはこの部隊に配属された面子の情報、次に相手の面子の情報に部隊の傾向……取るべき情報は多いしブリタニアのデータベースに侵入するのはかなりの神経を使う……何人かにも声かけて手伝って貰おうかな……そう色々考えながらアレクシアは歩き続けた
実り無きブリーフィングを終えた池田の胸中に漂うのは、どうしようもない無力感ばかりであった。
エリア11を、日本を取り戻すべく国を離れてまでここに来た。決して楽な道では無いとはわかっていた、わかっていたのだが……ここまで酷いとは想像出来なかった。いやこれは想像出来る方が凄いだろう。
戻る途中も方々から、明らかに自分達に対する言葉の数々が聞こえて来た。あまりの内容に激昂し今にも飛び掛かろうとする部下を何とか宥めながら、ようやく自分達の担当箇所に戻った。
すると留守番で残っていた部下達から、来客がいるとの報告があった。はて、こんな所に正規軍の連中が来るとも思えないが…。
そう思い自分のトレーラーに入ると、そこにいたのは同じ日本人の軍人であった。一見だらしのない恰好で、軍服でなく私服であったら失礼にも浮浪者と言っても通じそうな印象の男性だ。だがその目は力強くはっきりと自分を見ていた。確か彼は……。
「これは海棠大佐でありますか、お待たせして申し訳ありません」
外人部隊に入ってから方々で噂には聞いていた。イタリアの外人部隊には優れた日本人の指揮官がいると。ただ今まで直に会った事は無かった為、これが事実上の初対面である。
少佐の自分に対し、相手は大佐である為上位者に対する態度で挨拶したが、海棠は手を伸ばして制止した。
「よしなってそんな態度。そりゃ日本時代はこっちが上だったかもしれんが、今では同じ一部隊の隊長として上下関係も無いんだ。楽にしてくれて構わないさ、別に呼び捨てでも気にしないよ?」
「いえ流石にそれは……それより何故ここに?それより今その手に持っているのは?」
「いや同郷の誼って事で一杯どうかと思ってね……もし迷惑だったなら言ってくれても構わないよ?」
「……いえ、でしたら有難く頂きます」
海棠が差し出した酒瓶から自分のコップに中身を注ぎ入れ、それを池田は一息に飲み干した。
「……結構いい飲みっぷりだね。正直あまり酒を好みそうにない顔してたからさ」
「……たまにはこうして、飲みたい時もあります」
「……そうかい」
その後しばらく日本人の隊長達によるささやかな飲み会は続いた。その間それぞれの部隊についての情報交換、総隊長ピエルス大佐の実力や人柄の程、または自分達の故郷の話等を挟みながら…。
浅海は自分の愛機であるソレイユの確認を行っていた。何せオランダ外人部隊の最高戦力たる最新型のKMFであり、扱いは慎重にしなければならないし万が一の事があってはいけないからだ。
…と言うのが建前だが、実際は違う。とにかく何か気を紛らわせるものが無いと、とてもじゃないがやってられないからだ。
先程のブリーフィングでもとにかく正規軍の連中は酷かったし、厭らしい視線もいくつか感じた。アレを見たらかつて「日本の為に戦え!」とひたすら叫んでいた軍人達がまだ立派に思えてくるのだから不思議だ。
…そう言えばイタリアには同じ日本人だが、とんでもない奴がいると聞いた。たしか……行村という旧日本軍の少佐だ。外人部隊に入ってあっという間に有名人となっている。悪い意味でだが。
あの場にもいなかったという事は、どうやらここに呼ばれていないという事だろうか?でもまだ何部隊か、様々な理由で到着が遅れているらしい。ひょっとしたら……。
それはさておき、噂によれば到来するブリタニアの皇族軍は『好色皇子』ルーカスに『双剣皇女』エルシリアとセラフィナ、そして……ライルがそれぞれ率いる軍が来ると見られている。
ルーカス軍の事は嫌でも噂に聞いている。方々での略奪、強姦、虐殺は日常茶飯事で練度も人格面でもブリタニア最低の軍隊だと。E.U.やブリタニア云々関係無く女として絶対に許せない連中だし、彼らに負けるなんて色々と論外である。
エルシリア軍はどうしても他の軍団の影に隠れがちで、中には大した事無いのだと見下す連中も多いが自分はそうは思わない。直に戦ったが本当に手強い連中揃いで隙が無い。ひょっとしたらあの畑方秀作もそこにいるのだろうか?
そしてライル……この戦場で再び出会えるのだろうか?少なくとも前の様に生身での対面は絶対無いとは思うが……もし彼と再び戦う事になっても、自分は戦えるのか?
あの時は単に「洗脳皇子に負けるか!」という一心で、単に倒すべき敵としか思って無かったが今は違う……自分でも戦う理由を見失いかけているし、心のどこかで彼が自分に手を差し伸べてくれる事を期待してしまっている…。
でもイレブンだからと色眼鏡で見る事無く扱ってくれた少佐の事や、今ではある程度仲良くもなった同僚達の事を捨てて一人裏切る事なんて出来ない……そういう手の裏切りは多分彼も嫌いそうだろう。
本当にどうしたらいいのだろうか……内心の不安を消し去るべく、彼女の調整は明け方まで続き気付けばコクピットの中で寝てしまった。
個人用に用意された執務室の一角…バルディーニは独りこの連隊に配属された外人部隊の面子のリストに目を通していた。
改めて見ても腕利き揃い……少なくともいつぞやのドイツ軍の様に、練度の低さに頭を抱える事は無いだろう。
だが戦意に関しては望み薄でしかない……当然かもしれないが隊長格の半分以上はE.U.圏外から流れて来た者であり、別に祖国でも無い、まして碌な扱いを受けてないこの国に対して最後まで戦おうとする者がどれだけいるのやら…。
E.U.出身者に関しては軍規違反、命令違反、不祥事の為といった理由での配属である。今となっては確認のしようがない為断定するのは早計だが、軍上層部の腐敗ぶりを考えれば、軍規違反というのもでっち上げの可能性も考えられる…。
この部隊に入った時点で大半がE.U.への嫌悪感を募らせている状況、それが年単位で積み重ねられた連中ばかり…考えるのも嫌になる。
(正規軍は言うに及ばずだが、外人部隊もどこまで戦えるか……中核戦力はこの4部隊だが)
彼が中核として選んだのはまずよく知っているイタリアの海棠、手堅く腕利き揃いとの評判のフランスの池田、外人部隊内最大戦力と噂されるドイツのヴァントレーン、エース級の機体とパイロットを抱えるオランダのドリーセンの4部隊である。
理想としては彼等を中心に各々連携を取りつつ臨機応変に立ち回れば、相手がラウンズでも投入しない限りはそう簡単には負けないだろう。
だが何と言っても足枷が重すぎる。正規軍の連中は語るまでも無いが、仮に戦局が有利だと思えばすぐに突出する傾向が強い。そしてその後敵の逆撃を喰らう事も多々ある。今回もそれを想定する必要があるだろう。
総隊長ピエルス大佐率いる直属部隊も未知数だ…取り寄せた戦闘記録を見る限りでは本人の力量に不安は無い。だがそれ以外は?彼女がいくら強くてもたかだか数機しか付いて来ない様ではあまり期待しすぎるのも酷だろう。
そして先に述べた4部隊を除く、大多数の外人部隊。実力は心配無いがその力がいつこちらに向けられるか……自分でも疑いすぎだとは思っているが、今回のブリーフィングで総隊長に向けたあの不信感に満ちた目を見れば、嫌でもその可能性を考えざるを得ない。
もし相手がルーカス軍なら降伏しても無駄、とわかっているだろうからその点ある意味安心できるのだが…どうなる事やら。
自分達が今何を護ろうとしているのか…勝った所で未来はあるのか…それをあまり考えない様にしながら、バルディーニの思索は続いた。
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