[37811] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-13『混沌とする世界…後編』 |
- 健 - 2017年11月13日 (月) 19時54分
良二は久しぶりに旧友の枢木スザクに会っていた。
「出世したな、スザク。」
「君こそ、皇族の直属部隊なんて凄いじゃないか。」
「お前ほどじゃないよ。」と笑って返しながら、良二は軍で再会した時からの違和感が拭えなかった。あの時は、深く追求しなかった。だが……
どうしたんだ、一体?一人称が『僕』になったり、ルールに拘ったり………まるで優等生を演じているみたいだぞ。
藤堂の門下生だった頃は、一言で言えば「乱暴者」だった。一人称も「俺」で、枢木の家で預かることになったというブリタニア人の友達が出来た頃もだった。彼の戦争で何かがあった?
「スザク、良いか?」
「なんだい?」
「お前に……一体何があった?あの戦争で……昔のお前は規則なんて殆ど拘らない方だったじゃないか。それがなんで……」
どちらかと言えば、良二は家のルールなどには狭苦しさを感じながらも、従っていた。だから、ある意味でそういうのを殆ど気にしないようなスザクが羨ましかった。だが……今は昔の良二と同じ、いやそれ以上だ。
「クロヴィス総督殺害容疑の時も……あのまま逃げれば良かったのに、何故?」
「法廷に出頭しろという命令だったんだ……それなら…」
「お前を殺すための魔女裁判だと分かっていてもか?」
イレヴンに真っ当な裁判を受けさせるなどあり得ない……なのに。
「はっきり言って……どうかしている。あの頃は聞かなかったが、まるで優等生でなければいけないという強迫観念に駆られているみたいだ。」
スザクは同輩の詰め寄る態度に気圧された。あの頃、確かに彼ら以外に友達がいなかったスザクにとって、家同士の付き合いを抜きにしてくっついてきたり悪さに荷担した良二は友達と呼べたかもしれない。あの二人ほど深い付き合いでないのに、ここまで見透かされるとは………観念するしかないようだ。
「良二………これはユーフェミア様とあと二人しか知らないことなんだ。」
「ユーフェミア様が?」
「父さんの最期、君はなんて聞いてる?」
枢木首相の最期?……諸説あるが、良二は『徹底抗戦を唱える郡部を諫めるために自決した』と聞いている。
「それが…」
「違うんだ……父さんは自決したんじゃない。殺された……」
「殺された!?誰に…!」
「僕だ。」
良二は思考が止まった。
「父さんは僕が……俺が殺したんだ。」
「…………お、おいなんだよそれ?…冗談にしては笑えないぞ?」
本当に笑えない…殺した?首相を……いや、父親を?だって、あの頃スザクは10歳だ。
「本当だ……父は世界が自分を中心に世界が動いていると思い込んでいた。本土決戦でも……!」
「だ……だからって…なんで!お前の父親だろう!?」
「そうしなかったら、日本はどうなってた!?」
『首相の息子のくせに』などと良二は言うつもりはない。むしろ、父を殺めるという事実が良二にスザクへの怒りを募らせ、怒鳴らせた。掴みかかられたスザクも怒鳴り返す。
そうしなければ……良二は想像する。もし、あのまま本土決戦が続いていたらどうなっていた?被害は更に拡大し、良二も死んでいたかもしれない……いや、良二だけではない。今ライルの元にいる日本人達も……
「でも、その結果はこれだ。ゼロが現れ、日本人は更に苦しんでいる。だから……間違った方法ではなく、正しい方法で俺は…!『ナイトオブワン』になって、エリア11を…日本を!」
「………分かった、スザク。」
「え?」
良二はスザクの両肩に手を置いた。
「お前が正しさに拘る理由も分かった……『ナイトオブワン』になって、自分のやり方で日本を取り戻すのも……!」
「良二…」
「前に話しただろう?お前に会うまで、自分が軍にいる意味が分からなかったって………今は違う。」
「今は?」
「お前がユーフェミア様に会ったように、俺もライル殿下に会った。あの方は本気で世界を変えようとしている。お前とは違う方法で……だから、俺も俺のやり方で世界に向き合う。」
良二は笑い、拳を出した。
「ここからは競争だ、スザク。お前が『ナイトオブワン』になるのが先か、ライル殿下が皇帝になるのが先か。」
「…ああ!」
スザクも昔、一緒に悪さをしたような笑顔で拳を出し、二人はぶつけ合った。
ライルは連れてきていた有紗と共にナナリーに会っていた。帰ってきたと聞いた時は本当に信じられなかった。あの時、死んだと思っていたのだから……
総督に志願した事を確認したら、それが事実でシュナイゼルも承認したこと……そして、ルルーシュがまだ行方不明であることも聞いた。ライルは危険だからやめさせようと説得を試みたが、聞かなかった。ここ数年で頑固になった義妹の説得を諦め、ライルは仲が良かった義弟のことを訪ねる。
「ナナリー、ルルーシュのことは?」
車椅子に座り、瞼が閉じられたままの可憐な少女は表情を曇らせ、「いいえ。」と答える。
「そうか……でも、『ブラック・リベリオン』の頃までは一緒だったんだね?」
「はい…アッシュフォード学園の方で………お父様から生徒会の皆さんに連絡を取ったり、会うことは禁じられているのです。」
そう、ライルはそれが気がかりであった。無事であったのならば、彼らも心配しているはずだから……せめて生存くらい知らせても良いはず。なのに………
ふと、ここでサラが言っていたことが脳裏に蘇る。生徒会副会長の……ルルーシュの妹が別人にすり替わったかと思いきや、今度は弟になっていた。生徒会のメンバーも何の違和感も抱いていない………
本当に……暗示か何かで記憶操作でも受けたというのか?
それならば、確かに妹のすり代わりや弟への変化…ナナリーからの面会禁止も説明がつく。しかし………それが機情がエリア11で何か動いていることとどう結びつくのか…分からない。
「ナナリー、エリア11で過ごしている時……何か変なことはなかったか?」
「変なこと?………そういえば、クロヴィス兄様が亡くなられた頃からお兄様がお出かけすることが多くなって。」
「クロヴィス兄様が亡くなった頃?」
おかしな偶然があ、る………
いや、まさか……そんなはずはない。
ライルの勘が示した一つの仮説をライルは自分で必死に否定し、無理矢理しまい込んだ。
「多分、自分達の素性がばれることに過敏になったんだね。」
「…そう、ですね。ライル兄様はこの後、E.U.の方へ?」
「ああ……」
「あまり、無理はなさらないでくださいね?クロヴィス兄様とユフィ姉様が亡くなられて…マリー姉様も様子がおかしいようなので。」
ナナリーの声が沈んだ。無理もない。ユーフェミアと特に仲が良かったのはルルーシュとナナリーだ。マリーベルともライルやウェルナーを交えてよく遊んだのだから、彼女の死はナナリーにとっても大きい。
「君もね……皇族は大勢の人々から憎まれる。例え、眼と足が不自由でも…例外ではないだろうから………」
冷酷だが、事実なので敢えてそう言った方が良いとライルは思った。
有紗はライルに紅茶を入れ、ライルに質問した。
「あのナナリー様という方……お母様の暗殺に巻き込まれて、あんな身体になってしまったんですよね?」
「ああ……母君のマリアンヌ様は庶民出身だった。だから貴族出身者達には目障りだったんだ。」
庶民出身……そんな理由で?
「昔、あの子はお転婆でね……私やウェルナーも振り回されていたよ。」
「……それが、今じゃあ。」
あまりに痛ましい……皇族だから憎むという考えは有紗は持たないようにしている。そもそも、ライルもナナリーも………あの頃は自分と同じ年頃の子供だったのだ。まして、そのライルを今…
「でも……どうして、そんな人を総督に?」
素人の有紗から見てもおかしい。それならば、まだライルやシルヴィオが総督に就任する方が説得力がある。
「…エリア11はゼロという英雄の復活で反抗の火種がまた大きくなり始めている。だから、兄様は敢えて強硬政策や軍人の私達よりも…政治経験が乏しく、身体的なハンデが大きいナナリーを推したんだ。眼と足の不自由な少女が……総督という激務に臨む………ブリタニア人は勿論、テロリスト側にとっても少なくとも殺すのにためらいを覚える者も出るだろう。」
有紗は戦慄した…!つまり、政治のカードだ。眼と足の不自由な妹を政治のカードにするなんて!
「いくら何でも酷すぎます!」
「私も同意見だ……正規軍が守っているとはいえ、銃を持つことすらままならないナナリーに総督など…!」
ライルが拳を握った。血がにじみ出そうなくらいに強く握る拳を見て、有紗は手を添えた。
「ライル様、少しお休みになってください……明日は戻らないといけないのですから。」
「…ああ、君も休んでおくといい。」
「はい…」
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