[37799] コードギアス 戦場のライルB2 SIDE OF WARFARE『堕落した民主主義』 |
- 健 - 2017年11月10日 (金) 22時53分
ライルがエリア24との国境線を、シュナイゼルが北部の海岸線を抑えたことによってフランスは孤立していた。しかし……今日はベルサイユ宮殿でパーティーが開かれていた。
「流石ピエルス将軍のご息女……貴女がおられればパリは安全ですね。」
「いやはや、最後まで革命政府を信じてパリに残った意味があるという物。」
資産家達はパーティーに出席した美しい女性に次々と声を掛けていた。その辺の女優やモデルなど問題にならないような美貌と並外れたプロポーションに加え、纏ったドレスと薄い化粧がそれを際立たせている。
「いえ………私のような油にまみれた者がパーティーに出るなど。」
「ははは、ご謙遜を……貴女ほどお美しい方に戦場など不似合いです。そういう意味では……あのブライスガウの娘も同じなのですが、実に惜しい。」
クラリスは内心で吐き気がしていた。幼い頃に仕込まれた処世術で上手く相手をしているが、こいつ等の魂胆はこの期に及んでも金と権力だ。
分かっていないんだわ、こいつら。もうパリが陥落寸前だということが………今更首都圏防衛の精鋭部隊なんて設立して何の意味があるっていうの?
いや、むしろ分かっていても自分達だけは金さえあればブリタニア占領下での地位を保証してくれると思い込み…あるいは確信しているからこうしていられるのだ。実際にブリタニアにとっても、現地の名家や財閥は植民地政策を続ける上で仲良くしたい相手だ。ここにいるのはそういう手合いばかり………
向こうでは、同じく出席していた親友が父に紹介されていた。
「息子のフィリップです……この度の戦争でも命を賭して戦っております。」
「まあ、勇敢ですのね。」
父と年代の近い婦人達は賞賛し、連れられた令嬢も恥じらっているように見える。
パリ防衛司令官に任命された将軍はため息をついた。今頃、ベルサイユ宮殿では優雅なパーティーが開かれていることだろう。彼は、あの『方舟の船団』の騒乱で逃げようとしたアブラーム将軍を殺した後、パリ方面の防衛軍司令官に任命された。あの騒乱で軍の幹部達も大勢逃げだし、残ったスマイラスの同志も戦死した事により生じた人員の不足を補うためだ。
消去法で選ばれただけだな……あわよくば、責任を押しつけるための。
全く、この様な状況でも統合本部の幹部達は逃げる算段をしているのだろう………既に首都機能をロンドンかベルリンに映すという案件が四十人委員会では議論されているが、将軍の見立てでは恐らく未だにブリタニアの攻撃を受けていないロンドンが一番だ。
皮肉だな……ブリタニアの大本である英国王室が栄えた土地で民主主義のトップ達が議会を維持するとは。
どうせ資産家や政治家、軍上層部とその家族は既に逃げる準備を整えているし、ブリタニア側とも話が付いているだろう。要するに、自分は全てを擦り付けるための生け贄だ。
「生まれる国と時代を間違えたな………」
自分の能力が今の地位に就いているだけの物だという自負はある。だが、それでも限度はやはりある。そもそも、こんな状況下でも正規軍は一部を除いてやる気が全く無いのだ。しかも、やる気がない連中は敗戦後も安全や地位が保証されている者達の子息子女だ。
「スマイラス将軍が戦死されていなければ、少しはマシだったのだろうか?」
あの『w-ZERO』は『ユーロ・ブリタニア』の『四大騎士団』に大打撃を与えたものの、壊滅して司令官のレイラ・マルカル……いや、レイラ・ブライスガウも戦死したという。せめて、レイラが生きていたのならば、やる気のない正規軍よりも彼女を崇める市民達が戦意を持っていただろう………そうなれば、いくら鈍重な政府や軍でも………
よそう、もう二人共この世にいないのだ。無い物ねだりをしても何も変わらない。
「………今のうちに家族と話を付けておくか。」
将軍は電話を取りだし、家族につないだ。最悪の事態に備え、せめて残された妻や子の生活保障のために………両親は既に亡い。だから…
「どうでしょう、除隊をしてこの私と…」
「いえ、此処は軍上層に顔が利く私と……」
今度は政府や軍で高い地位にある者の息子達がクラリスに声を掛けていた。だが、皆ブリタニア本国とコネがある、『ユーロ・ブリタニア』を外交で退けた、日本企業の技術を有しているなど………自分とは全く関係のない自慢話ばかり。それにもいちいち愛想良くするのにも疲れる。
これで敗戦すれば、大方あのオヤジはシュナイゼル辺りに私を差し出すんだから……ああ、嫌になる!こんな事なら『方舟の船団』の時に戦死扱いで殺しておくんだった!!
ゼロが復活する少し前にE.U.は首都圏防衛の精鋭部隊を設立した。『ロンスヴォー特別機甲連隊』……クラリスがその総隊長を務め、最強と称されるKMFF部隊『ヒポグリフ機甲隊』を率いる。最新鋭のKMFを中心とした部隊だ。その部隊は鹵獲したサザーランドやグラスゴーもある………だが、あくまで市民へのパフォーマンスだ。実際に戦うのは例によって外人部隊とイレヴン……あくまで、彼らを戦わせて『ロンスヴォー特別機甲部隊』がブリタニアを撃退するように見せかけたいだけだ。
せっかくの最新鋭KMFもこれでは只の宝の持ち腐れだし、『ヒポグリフ機甲隊』なんて、名前もあの『w-ZERO』の『ワイヴァン特別攻撃隊』の猿まね……しかも、スペック上でローランはあのランスロットと渡り合える高性能機だが、そのランスロットや『ラウンズ』が現れれば、必然的にクラリスが抑えることとなる。そうなれば、良くて相打ちだ………もっとも、あの父がそんな真似を娘に許すとは思えない。
ああ…こんなのでも祖国、と思わないとやってられない。さっきから嫌らしい目で見てくるし、肩とか抱いてきて……!
そういえば…あの第八皇子は前線に来るのだろうか?そうだとすれば、以前の続きがしたいし……生身で会うことになれば、思い切って誘惑してみたい。
酒以外にそう考えて気を紛らわすことで、クラリスはどうにかパーティーをやり過ごした。
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