[37795] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−3 日本が手放したモノ』 |
- Ryu - 2017年11月09日 (木) 20時23分
−E.U.フランス州 ブルターニュ地域圏ヴァンヌ軍司令部−
シュナイゼル率いるE.U.上陸軍と戦い始めてから既に何日かが経過した。
元からこの辺り一帯はブリタニアとの戦争が開始してからというもの、西から来る連中を追い返すべく対空砲や航空戦力といった防衛戦力を集めており海や空からの攻撃への備えは厚い。フランスも『我が国最高峰の防衛戦』と自慢しているらしい。
こちらからの激しい砲撃もあって、向こうもここ数日は散発的な攻撃が続いてどうやら攻めあぐねている様だ。目立った損害は与えられていないが、この調子ならいずれ痺れを切らして強攻に移るだろう。
そうなればこちらも遠慮なく弾丸で歓迎しよう。とにかく奴の座乗艦さえ射程圏内に入れば、あとはそれ目掛けて長距離砲で狙い撃つ…それで終わりだ。
そして自分はこの活躍で一躍ドイツの…いやE.U.の英雄、何もかも思い通りのままだ。金も、名誉も、女も。
前線から遠く離れた司令部、空調も効いて快適な空間の中でE.U.ドイツ正規軍の将軍は、制服の上からでもわかる弛みきった腹を撫でながら、一人自身の未来を想像して悦に浸っていた。
−同時刻E.U.フランス州 ブルターニュ地域圏キベロン−ル・パレ防衛線−
「ったく、もう何日目だよ?いい加減帰れっての」
「そうそう、折角海に来て水着も新調したのに台無しじゃない!」
KMFに乗っているにも関わらず余りに緊張感の無い発言、もしここに真っ当な軍人がいれば即座に怒鳴って下手すれば手を上げていただろう。だが残念な事に、その周辺にいる連中も同レベルの人間ばかりであった。
その中でまだ「自分は軍人である」というまともな意識を持った一人の青年が聞こえてくる雑談から耳を塞いでいると、突然今自分が乗っているKMFが何かを察知したのか、反応があった。
一体何だろうか?とその青年は思ったがその答えはすぐに出た。何故なら彼等が屯っているドイツ軍担当箇所のド真ん中に1機、空から白いKMFが降りてきたからである。突然の光景に周りは雑談を辞めて訝しむが、その青年はそのKMFが何なのか、そして誰が乗っているのかを知っていた。
「ラ…ランスロット……!」
白を基調としたブリタニアの誇る最新鋭のKMF。一見こちらのKMFには無い流麗さも併せ持つフォルムに見惚れる奴もいそうだが、彼からすればまるで自分達の処刑人として天から遣わされた存在……『死神』、そうとしか思えなかった。
だが所詮1機だ、いくら奴が強かろうとこの数に囲まれて無事だと思っているのか?所詮イレブン、カミカゼ気取りで突っ込んだのか?
その青年は震える心を抑えつつ、内心で精一杯の虚勢を張って半ば叫ぶように周囲に指示を出した。
「全機!一斉攻撃だ!身の程知らずのイレブンに我々のちk」
結局最後まで言えずその青年が乗ったパンツァーフンメルはコクピットにハーケンの直撃を受けた事で物理的に黙らされ、彼もまた動くどころか考える事も永遠に出来なくなった。もっともそうなった機体は他に3機ほどいたのだが。
突然の攻撃に周りは恐慌状態に陥り、中には我先に逃げ出す機体もいた。そんな機体には目もくれず、その『死神』は戦おうと前に出てきたKMFを瞬殺した後、指揮官格のKMFや対空砲等を潰すべく別の場所へと移る。
そこからは正にE.U.軍にとっての悪夢の始まりだった。たった1機に数えきれないKMFが沈黙し、攻撃を仕掛けても造作も無く避けられ、絶好のタイミングで攻撃できたと思ったのも束の間、やはり避けられただけでなく即座に反撃を喰らい…文字通り手も足も出なかった。
ランスロットの出現と同時にシュナイゼルも先程までの攻撃が温く思える程の猛攻を、特にドイツ軍側の方に集中的に仕掛けた事で、突然の攻勢に対応できなかったドイツ軍は徐々に押し込まれ、その余波がイタリア軍の担当箇所にまで波及してしまい前線は崩壊しつつあった…。
「…何あれ」
迫り来るKMFをサザーランドでどうにか捌きつつ、遠目からでもわかる例の機体の暴れっぷりに、セーラは半ば茫然としていた。
本当にあそこで暴れているのは同じKMFなのか?例えるなら向こうが最新型のライフルを持っているのに対しこちらは火縄銃…大まかな分類上は一緒かもしれないが実際はまるで別物……そう思ってしまった。
もし自分があの場にいたら?ランスロット出現以前から動きが鈍かった連中よりは戦える?いやせいぜい1、2秒長生き出来る程度だ…。向こうからすれば、自分もあの連中と同じ「その辺の雑魚」と見做して大して変わらないのだろう。
そして彼女は改めて理解した。今自分達がいる戦場には、ああいった正真正銘の『化け物』がいる事、そしてそれに目を付けられたら最期、大半の人間は容赦無く命を刈り取られるのだと。
「ったく、ホントとんでもないね…」
絶え間無く伝わるランスロットの猛威…それを聞きながら海棠はモーナットを駆ってどうにか担当場所で踏ん張っていた。
ランスロットが現れたのはドイツ軍の担当箇所で少なくともこちらはその被害を受けてはいないが、迫り来るは多くのブリタニアのKMF隊……どうやら向こうはこの瞬間まで程々に戦っていたって事か。
ここ数日間の戦闘でこちら側の様子を窺ってドイツ軍側が組み易いと判断し、散発的な攻撃を繰り返す事でこちら側の気の緩みを生み出す。それを何日も繰り返せば元から戦意が低いのが大多数なE.U.軍、簡単に厭戦気分に陥る。そこを…ってな訳か。
(ある意味不幸中の幸い、かねぇ。こっちに来てりゃ一体どれだけ生き残れたか…俺が一番怪しいけど)
何せ自分が今乗っているKMFはパンツァーフンメル主体のE.U.軍の中にあってどう見ても新型とわかる機体。もし奴がこちらに来ていれば真っ先に自分を潰しにかかるだろう。自分が奴の立場だったらそうする。
そうなればどうなるか…最新型の機体を預かり、腕にも多少は覚えがあるから少なくとも瞬殺されはしない。だがそれだけであり結局結末は一つ、間違っても互角に戦えるだけの自分がまるで想像出来ない……海棠はそう思ってしまった。
(しかしまぁ、あれでまだ成長の余地があるってのが、ねぇ)
何せ既に40過ぎで衰える事はあっても成長する事は望めない自分と違い、彼はまだ20も超えてない。これから順当に行けば彼はより多くの戦場を経験し、肉体的にも精神的にもより一層の円熟味を増していく。
…そうなれば一体どこまで行くのか、考えただけで恐ろしい。今でさえ同じラウンズクラスぐらいでしか止められないのに?
「ったく、奴さんといい畑方の少年といい…どんだけの人材を日本は手放したのやら」
思わず口に出してしまったが、以前戦った畑方少年も彼の乗る機体の性能抜きに考えても相当な実力の持ち主である事は疑い様も無い。彼以外にも第八皇子ライルの軍に所属しているイレブンの何人かもエース級の実力者と噂されている。
一部は「ライルの依怙贔屓で新型を貰った」「イレブン共への単なるアピール」等と軽視して実際は大したこと無いのだと笑う人間も多いが、実際に戦ってみた自分にはわかる……彼らの実力は紛れもなく本物であると。
少なくとも海棠は彼らの事を「裏切り者」「売国奴」等と侮蔑する気は毛ほども無い。実際に面と向かって話し合った訳では無い分何とも言えないが、彼等が自分の意思でそうである事を決めたのであるなら、結局外野の自分達がどうこう言う権利は無い。
それが自分の為、家族の為、日本の為を思って、あるいは自らを見出してくれたライルの為だったとしても。
だがそれでも…もし彼らの様な人間がこちら側にいたとしたら……そう思わずにはいられない海棠であった。
『…海棠!撤退だ!』
「…随分早い見切りですね」
『…既にドイツ軍司令部は戦場を放棄する事を決めて逃げの一手だ…このまま戦っても最早死人が増えるだけで戦況の回復は望めない』
「…了解です。そちらも早く逃げて下さいよ中将?」
バルディーニからこちらの敗北が決定的となった事を聞き、海棠は気持ちを切り替えた。これからはとにかく部下達を死なせない為の戦いだ……腹を括って土田やセーラに矢継ぎ早に指示を出し、生き残る為に全力を尽くした。
−E.U.イタリア州 リグーリア州サヴォーナ外人部隊駐屯地−
「やれやれ、無様なものだな!結局海棠程度ではこれが限界だろう」
E.U.イタリア州の片隅…行村はドイツとイタリアの連合軍が敗北した知らせを聞き、それ見た事かと思った。
狭い駐屯地の中にあって彼は個別に用意した私室の中にいて、「勇士の休息」と称して一日中籠っている。
そして彼の足元には3人の同じ日本人の少女達が気を失い倒れていた……彼女らも行村も何も身に着けていない辺り、そこで何が行われていたかは語るまでも無い。
行村が指揮する部隊には出撃命令は下りなかった。イタリア軍の上層部が「彼等に是非任せたい任務がある」との事で留め置かれたのと、行村としても何故自分がフランスにまで出向かなければならないのだ、との考えが一致したのが理由である。
奴らは自分の実力を認めて一部隊を任せた。海棠の部下共は自分の事をどうやら僻んでいる様だがいずれわかる。誰が日本を開放する勇士に相応しいのかを。その時が来れば心身共に自分の為に存在してもらおう。
しかし忌々しいのはあの戦場にはどうやらあの男がいた事だ!日本が生んだ最低の裏切り者!最後の首相の息子にあるまじき恥さらし!あの様な奴がのさばっているなど間違っている!必ずやこの行村鷹一が成敗してくれる!!
奴もそうだが他にも成敗せねばならない人間は数多くいれど、こいつだけは!というのが2人いる。まずは畑方秀作!あの畑方将軍の意思を受け継ぎ、日本の為に先頭に立つべき人間が嘆かわしいことにブリタニアにいる!!
どうせあの偽善皇子が洗脳したのだろう!でなければ有り得ない!日本の為に生き、死すべき人間が日本に刃を向けるとは!可能ならその目を覚まさせたいが、もし不可能なら自分が処断する!それがせめてもの情けだ!
そしてゼロ!一体どこの馬の骨とも知れない不審者!一度負けておきながらおめおめ出てきた敗北者!何故日本人は奴を称えこの日本の勇士たる行村鷹一の事を敬わないのだ!?いつか文字通り仮面を剥ぎ取って正体を晒してくれる!!
ああ考えたら無性に腹が立ってきた!この勇者の猛り、鎮める為にももう少しこいつらにも働いてもらうか。
他の人間からすれば全く持って意味不明な思考回路のままに、行村は気を失って倒れている少女を強引に起こし、再び乱暴に抱いた。
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