[37792] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-13『混沌とする世界…中編』 |
- 健 - 2017年11月08日 (水) 20時43分
ライルはレイ、長野、良二を護衛に一度本国に戻っていた。国境線沿いもエリア24と本国の援軍で充実し、周辺地域の制圧もほぼ完了している。指揮官代行も信用できる貴族であり、ゲイリーとフェリクスも残してある。制圧と言っても、正規軍のほとんどが我先にと逃げ出した上にまともに抵抗をしたごく一部の正規軍と外人部隊も捕虜となった。むしろ、現地の住民の中にはE.U.正規軍による略奪から救ってくれたことを感謝する声もあり、率先してこちらに少量ながら水や食料を提供していた。むろん、ブリタニアに逆らえばこの程度では済まされないという恐怖もあるだろう。
だが……そういった事情を度外視してライルは現在の情勢も鑑みて、敗残兵による略奪や正規軍の暴走抑制に力を注いでいた。さすがにマリーベルもその問題には頭を悩ませており、確認のための部隊を派遣しようものならそれより先に現地が壊滅させられてしまうのだ。
しかも、E.U.方面を任されていた『ユーロ・ブリタニア』という一種の抑止力が弱体化したことで本国軍が出ることとなった。とにかく、本国と『ユーロ・ブリタニア』ではE.U.市民への感情温度が違い過ぎる。
ゼロ復活の前にもフランス州の避難民を乗せた列車がE.U.とブリタニアの正規軍に追われる事態に陥り、急行したライル軍が両軍に攻撃され、両軍とも壊滅させざるを得なかった。列車は鉄橋が破壊されたことで移動が不可能となり、彼らには申し訳ないがE.U.市民に対して寛大な措置をとる『ユーロ・ブリタニア』が拠点とするロシアへ移住させることとなった。幸い、残っていたヴェランス大公らもそれを了承し、市民の生活も多少の不自由はあるが弾圧はないという。
ブリタニア宮ではライル以外に、エルシリアとセラフィナ、シルヴィオとルーカスがおり、ウェルナーも見学という名目で出席していた。
「お前は本当に厄介ごとに巻き込まれやすいな。」
シルヴィオの皮肉にライルは睨み返した。
「そちらはどうなのですか?」
「…お前が送った川村のおかげでベラルーシ方面の反抗は抑えられた。今、敗残兵による略奪が行われている。」
シルヴィオも案の定のようだ。ブリタニアでもさすがにシュナイゼル旗下の軍はそのような暴挙に及んでおらず、ライルやエルシリアの軍も同じだ。
「全く、他人任せで楽をしていただけの連中がいざ危うくなるとこれまで頑張ってきたような気になる。外人部隊や捨て石にされたイレヴン達に聞かせてやりたいな。」
エルシリアの意見にはさすがにセラフィナも頷く。しかし……
「でも、ナンバーズ任せで自分たちだけ安全な場所、というのは私達も同じです。そうしないのは…本当に兄さんくらいです。」
もっともな意見であり、場の空気が気まずくなるが、ルーカスはそれを意に介さない。
「何を言っている、セラフィナ。俺達は誇りあるブリタニア皇族、野垂れ死にはナンバーズや庶民の仕事だぞ?」
特権意識だけ肥大化した無能な貴族共の決まり文句みたいなことを真理と言わんばかりの態度で主張するルーカスに同席した貴族たちが頷く。
「自分だけ安全な場所にいて、立場や権力を振りかざすような者に兵は着いてこない。」
エルシリアの意見にはライルもシルヴィオも頷く。
「ふん、そんなの金や女で留めればいいのさ。ライルや兄上もそうしているのではないか?」
その侮辱にはライルとシルヴィオが顔を険しくする。だが、そこへウェルナーが仲介に入る。
「待ってください、今は正規軍の暴走やエリア11の動向についてではないですか?」
「…けっ、藁皇子が知ったかぶりやがって。」
どこまでも不遜なルーカスを蔑視し、セラフィナが議題を持ち出す。
「正規軍の暴走はやはり、シルヴィオ兄さんの仰る様にゼロを言い訳にする以外にもブリタニアが大きくなり過ぎた弊害でしょうか?」
「…そうね、ただでさえナンバーズ関係の法律がライルに言わせれば弾圧に等しいもので…正当防衛さえ認められない。だから、軍にも付け上がる輩が現れ、それが各地の防衛や鎮圧に当たるのだから。」
そう、大きければその分人員の不足も表面化していき、モラルの低い兵士だってその分出てくる。今回の問題となっている正規軍の暴走はその例の一部だ。
シルヴィオはライルやエルシリアの話を聞きながら、父の政策に疑念を持ち始めた。自らの治世を広めるという大義で各国へ侵攻していながら、当の本人は演説などの場に現れても普段は何をしているのかが全く読めない。『ブラック・リベリオン』でも対策会議の場にいなかったことをシルヴィオも知っている。
陛下は本当にご自分で仰っていたような大義を広めようとしておられるのか?その割には殆どを兄上達や我々に任せきりだ。
仮にE.U.と中華連邦に勝利したとしても、その治安維持に必要な警官や軍人の数が圧倒的に足りないのは明白…名誉ブリタニア人制度でも全てがライルの下にいる者達のような事情でブリタニアに恭順しているわけでもないし、その不足を補えるわけがない。
まさか……やはり何か別の思惑が?
「兄上、どうかなさいましたか?」
ウェルナーの問いにシルヴィオは「いや。」と答えた。
「で、ゼロの方だが…私は仮面の下は別として……相手がカラレスだったのを除外しても、この作戦の立案能力は以前のゼロと遜色ないとみている。」
「ええ、私も同意見です。」
「……あの大胆かつ巧妙な作戦、模倣犯にしては本人に近すぎますし。」
エルシリアとライルも同調するが、ルーカスは相変わらず関心がなさそうだ。
「それで…次のエリア11の総督は誰なのですか?私は、ライル兄様かセラ姉様が良いと思うのです。」
ウェルナーの意見に貴族の一人が挙手する。
「ウェルナー殿下、失礼ながらその根拠は?」
ユーフェミア同様、机の勉強でしか政治のことを知らないウェルナーの意見を流石にこれ以上は問題と思わざるを得なかったのだろう。個人的に親しいから、という理由では総督に推薦することはできない。
「……はい、うまく説明はできませんが…カラレス総督は、反ブリタニア活動を行う人と共に無関係な人を大勢、見せしめのように処刑するという非道が目立っていました。だから…兄上達は……そういうことがお嫌いです…つまり……」
「彼らに対する弾圧を行わない穏健派の人物が総督を務めた方が良い、そうだね?」
後ろからした声に振り向くと、そこにはシュナイゼルが立っていた。
「あ…はい、そうです。」
「シュナイゼル兄様……我々が言えたことではありませんが…宜しいのですか、E.U.は?」
ライルの質問にシュナイゼルはいつもと同じ柔和な笑みで「ああ。」と答える。
「上陸地点周辺の地域との話は付いた……その先の地域も、交渉の準備を進めている。とはいえ、流石に軍も必死な様子だ。今度ばかりは簡単には行かせてくれないだろう。」
さすがにシュナイゼルは動きが早いが、最後の意見には前線に出る皇族達も表情を引き締める。パリはE.U.の中枢、たとえ首都機能を他の都市に移しても、首都陥落は兵士にも市民にも心理的重圧がかかる。
「それと、先ほどウェルナーが話していたエリア11の総督は後任が決まったよ。志願した子がいてね。」
「…志願?誰ですか?」
エルシリアが首をかしげる。クロヴィスとユーフェミアの一件で皇族達が総督に就任しようとせず、ユーフェミアの一件で敵意を煽りやすい上に本国で失態を演じたライルが就任できないからこそ、カラレスが就任した。そのエリア11に誰が?
「ナナリーだよ。」
それにはルーカスも「何!?」と驚愕し、ウェルナーも「そんな。」と驚愕した。シルヴィオも内心では同じだ。
まさか…あのマリアンヌの遺児にして、日本占領の時に死んだと思われながら、『ブラック・リベリオン』の後に帰還し、現在第八十八皇位継承権者となっているナナリー・ヴィ・ブリタニアが総督に?
|
|