[37785] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−2 麻痺する感覚』 |
- Ryu - 2017年11月06日 (月) 15時28分
−E.U.フランス州 ブルターニュ地域圏ヴァンヌ駐屯地−
近々シュナイゼル率いる軍勢がフランス本土上陸を目論み接近中との発表があり、E.U.もそれに対する備えに追われていた。
何せ相手はブリタニア帝国宰相シュナイゼル。名目共に帝国のNo.2で次期皇帝候補No.1と噂される人物。イレブンの女なり文化にうつつを抜かしている様な皇子達と同じ様に見る事は流石の正規軍もしなかった。
何としても彼率いる軍勢を撃退し、E.U.を護るのだ……そう思っているのは一部の士官クラスだけであり、他の多くの一般兵はいつもの様にキャンプ、いや海に遊びに来た程度の感覚で現地にいた。
そして例によって最前線には外人部隊が配置される事となった。これもやはりいつも通りの光景である。
「ここを抜けられたらパリとの間に大した障害は無い、とにかく死守あるのみだ」
「…だけどここフランスでしょ?なのにそのフランス軍がいないってのは、正直どうなんですかね?」
「言うな海棠。それ以上は」
イタリア州外人部隊所属の海棠龍一の漏らしたボヤきを、同部隊のまとめ役の将軍アデルモ・バルディーニが窘めるが、その声色には明らかに失望の色が滲んでいる。
「軍の再編成中や、エリア24方面の3つの皇族軍への備えの為に動かすことは出来ない…と言うのが向こうの言い分だ」
「ま確かに下手に全戦力をこっちに向ければ、あちらの主攻と助攻は簡単に入れ替える事が出来る。そういう点からもフランス主力部隊があっち方面で待機というのは意味不明な言い草では無いとは思いますがね」
「ああ、だが全く寄こさないと言うのはな…仮にもE.U.の中心以前に自分達の国でもある筈なのだが」
「おかげでドイツとイタリアの軍が出張る羽目になると。もっともあっちもあっちで皇族軍の脅威が迫ってるんですけどね」
援軍としてやって来た両国の正規軍のやる気は低い、いやこれもある意味いつも通りの事かもしれないが特にドイツの方は酷い。元からフランスとドイツの両国は自分こそE.U.の中心、という意識から水面下での対立や足の引っ張り合いは恒例行事とまで言われている。
今回も自国の軍を温存して他国の軍(特にドイツ)を消耗させて、後々の軍事的優位から完全にE.U.の主導権を握ろうとしているのではないかと囁かれている。
もうE.U.が崖っぷちに追い込まれているも同然の状態で、そんな事を考える筈が無い…バルディーニはそう思いたかったが、今までの政府の行状を考えると有り得そうと思ってしまう。
「ドイツの外人部隊も、見るからにやる気なさそうな連中でしたよ。せめて今現在ポーランド方面で戦っている奴らと交換してほしいぐらいに」
ドイツ軍外人部隊のまとめ役の将軍と会ったが、見るからに押し付けられたが故の意気の低さが感じられる男であった。率いる部隊も国元で待機中だった者達中心であり、荒んでいるのかモラルの低さも見受けられた。
「もうこれ以上願望述べても仕方あるまい…とにかくやるしかあるまい」
「了解です」
ナカタ・クレシェント・セーラは現在自分が乗るサザーランドの調整を行っていた。グロースターよりは型落ちするものの戦うには十分な性能の機体である。
だがブリタニアも量産型新型機のロールアウトが間近、今回のシュナイゼル率いる部隊にも先行して投入された機体が数機存在するとの噂だ。あのラウンズの様に1機で戦局をひっくり返すだけの力があるとは思えないが、それでも甘く見ていい話じゃない。
もし向こうの新型とぶつかった時自分がどこまで戦えるのか、いやそもそも生き残れるのか?そんな不安を振り払うべく、集中して機体の各部をチェックしていた。
…だが先ほどから集中できないでいる。理由は簡単、自分の聞こえる範囲で何やらイザコザが起きているからだ。
「なあいいだろ?少しぐらい貸してくれよぉあの姉ちゃん」
「頼むよ。俺達最近潤いが無ふてもう困ってんだよ!別に何もしねぇって!」
「断る。そもそもここはこっち(イタリア軍外人部隊)の駐屯地だ。何でおたくら(ドイツ軍外人部隊)がここにいる?」
「固い事言うなよ兄ちゃん!俺達ゃ同じ外人部隊なんらからよ!捨てられた者同士仲良くしようぜ!」
土田一樹と橋本裕太は目の前の連中の対応に追われていた。彼等はどうやら昼間から酒を飲んでいるのか顔色は赤く呂律もどこか怪しい。正直その辺の酔っ払いが何かの余興で軍服を着ている、そう言った方がまだ現実味がある。
千鳥足でこっちに迷い込んで来たと思ったらあちこちに声かけて絡み、途中でKMFの調整中だったセーラに目を付けて近付こうとした所を橋本が見咎めて今に至る訳である。彼女は黙々と作業し気付いてないフリをしているが、明らかに作業速度が遅くなっている。
そうこう押し問答をしている内に別の標的を見つけたのか飽きたのか、彼等はさっさと去って行った。去り際に聞いているこっちが不愉快に思えてくる捨て台詞を吐きながら。
「ケッ!なんだぇケチな野郎だぜ、そんなに自分達だけで楽しみたいのかよ」
「もしお前らが死んで俺たちが生き残った時は、彼女の面倒は任へなってな!じゃあな」
その発言に橋本が何か言いそうになったが土田が手で制し、彼らが見えなくなった所で橋本が抑えていた物を噴出させた。
「何なんですかあいつら!?E.U.は正規軍だけでなく外人部隊もあんな奴らばっかりなんですか土田さん!?」
「今更だろう橋本、忘れたのか?俺達所属のイタリア州外人部隊にも日本の恥さらしがいる事を?」
「………」
その言葉に橋本は押し黙ってしまった。元からその「恥さらし」の事は嫌っていたが先日のとある行動でもう許されるのなら即刻始末したい…そう思えるまでに心象は落ちてた。
外人部隊に下されたある命令……それを奴は嬉々として行い、多くの「献上品」を上層部に齎した。その働きぶりや彼等の一派だけでイタリア州外人部隊全体のノルマを達成した…それだけでいかに凄まじい物だったかは推して知るべしである。
当然その行動に激怒した者は多く橋本だけでなく土田もその内の一人だったが、奴はこの働きで上に気に入られたのか海棠の下から独立して一部隊を任されるという事になってしまった。当然自分達の一派はそっくりそのまま移籍である。
それで今現在はイタリアに留まっており待機中との事だが奴が大人しくしているとは到底思えない、今この時も一体何人もの人間が奴の妄執の為に生贄にされているのだろうか……そう思うとひたすら気持ちは落ち込んでしまうのであった。
そこに調整を終えたセーラがKMFから降りてこちらに向かって来た。それを見て橋本が恐る恐る声を掛けた。
「セーラさん…さっきの会話は…」
「…気にしてないわ。だってもう今更じゃない」
どこか諦めた様子でそれだけ言ってセーラはどこかへと去って行った。「今更」…一体何度聞いた事だろうかこの言葉を。
E.U.そのもののやる気のなさ、正規軍のみならず一部外人部隊のモラルの低さ、自分達に向けられる謂れなき見下しや露骨な差別表現、ある意味何も変わらず己が欲望に邁進する奴。慣れていい物じゃないのに、もう慣れてしまっている。
一体いつまで続くのだろうか?そもそも自分達の目的は何だったのか?ここに来てから次第にそれを忘れそうになってしまう自分がいる。そう思うとひたすら恐ろしく思えてしまった橋本であった。
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