[37767] コードギアス 戦場のライルB2 Inside Story 『Episode−0 対決3日前』 |
- Ryu - 2017年11月01日 (水) 12時25分
−革命暦229年某月 E.U.ポーランド州ビャヴィストク基地−
「これが新型KMF…やっぱ最新型は色々と違うな」
「ああ、傷一つ無い状態でウチにKMFが寄こされるなんて事があったかな?」
「他の外人部隊にもいくつか独自開発したのが回されているって話だぜ」
「へえ、上もそれなりに本腰入れてるってこと?」
「ないない。だって『あの』上層部だぞ?出来るもんならさっさとやってるさ。今更遅いって」
「違いない」
E.U.ドイツ軍外人部隊にインド軍区が開発したKMFが配備される事となり、物珍しさに周囲には多くの外人部隊所属の隊員が見物に来ている。彼らにとってKMFの調達は敵から奪うのが常套手段であり、時には数機のKMFの無事な部分だけを使って1機のKMFにする事も多々あった。
当然奪った後のメンテナンス等を正規軍がしてくれる訳も無いので、KMF相手に生身で立ち向かうという自殺行為をしたくなければ、嫌でもKMFの整備を自力で行う事が出来るようになる。そういった技術を彼らは自然と身に着けていた。
そんな彼等からすれば、目の前に鎮座している2機のKMFは本当に珍しい存在そのものであり、中々その人だかりが消える事は無かった。
「基本スペックだけ見ても、今まで私達が乗っていたのとは一線を画しますね…」
「ああ、今までのが中古のオンボロ車だったのがいきなりスポーツカー。それぐらいの感覚だな」
外人部隊に宛がわれた一室、ゼラートとウェンディの2人は新型2機の分厚い仕様書にそれぞれ目を通していた。普通は技術者とかがある程度の説明をするものだろうが、KMFを渡しに来たのは別の外人部隊で技術者なんて誰もいなかった。
話を聞けば彼らも正規軍から「俺達の代わりに運べ」と命令されただけであり、それだけ伝えてさっさと帰ったとの事である。よって隅から隅まで自分達で確認しなければならない事となった。
「しかし良かったのですか?」
「ん?何がだ?」
「実力を考えると、私よりもアサドやクラック辺りに任せた方が良いと思うのですが?」
「まあな…だが俺としてはまず指揮官級の人材に新型機を回したいと思ったからこそのお前だがな」
別に両名の指揮能力は低く無いが、ウェンディに比べると若干落ちる。彼女は突出した実力こそ無いが全体的にバランスが良い…点数で言うなら90点以上のものは無いが全部が85点前後で纏まった実力者だ。
ただそれ故にその道のトップには勝てない…KMFでの戦闘だとラウンズ級の相手は流石に無理だが、そうでない限りは簡単にはやられない。一部の連中は「愛人大事」で与えたと陰口を叩かれているが、少なくとも彼女の事を知っている人間はその決定を理解している。
それに新型が欲しければ(出来るかどうかは別として)大破しない程度に敵から奪う…彼等からすればそれだけの事だ。
「ふふっ…ありがとうございます」
「世辞はいらん。今日中には読破して翌日には戦える段階にまで仕上げるぞ」
「はい」
一見素っ気ない態度だがいつもの事である。結局その日は夜遅くまでかかり、同じベットに入ったが特に何もする事無く眠り、翌日に備える2人であった。
「チッ、どうせなら1個小隊分新型寄こせっての。正規軍の為に使う金をこっちに回せばいいだろ」
「文句言わない。こっちに回って来ただけでも奇跡的だと思わないと」
未だ新型を眺めながら乗れない事に未練タラタラな表情を浮かべるアサドを、隣のアレクシアが窘める。
「でも大丈夫かな?近々私達が戦うのって『侍皇子』なんでしょ?中佐、大丈夫かなぁ…」
そんな二人の近く、アレクシアの隣にいたイロナが不安そうな声を挙げる。彼女が聞いた噂によればその『侍皇子』は戦場で強そうな敵を見つけると『テンチュー』と叫んで問答無用で斬りかかるとか、重罪を犯した部下に対して銃殺刑でなくハラキリを言い渡すとか、どうにも旧日本の数百年以上前の風習にかぶれている……でも強い。との事である。
「大丈夫大丈夫。ぶっちゃけあの中佐が負ける所なんて、全然想像付かないでしょ?」
「全くだ。それとイロナ、一体どこの情報だそれ?流石にそんな奴いねぇだろ。まさか大昔の本物じゃあるまいに」
そんなイロナの頭を撫でるアレクシアと、呆れた様な表情を浮かべるアサドの2人は、大して心配していない。そうあくまで中佐『個人』に限った話であるが。
いくら自分達の隊長が強かろうと、全体の戦闘そのものに勝てるかどうかはまた別…というかまともに勝てた例が無いからだ。
自分達が最前線に放り込まれる→こっちの作戦が発動する→調子に乗って正規軍が突っ込む→逆撃を喰らう→自分達がフォローに追われ、殿を押し付けられる→結局成果0(時にマイナス)で(外人部隊の)負傷者多数…というのがお決まりのパターンだからだ。
それを言ってしまえば折角の割と和やかな空気が最底辺にまで落ち込みかねない。両名は知ってか知らずか同じ様な事を考えていた。
(それに新型が配備されるのは向こうも同じ、どうやら援軍に他の軍から1機回されているって話らしいしな)
現状他所から得るだけのこちらに対し、向こうは自国で生産したのを大量に配備される。あの『ランスロット』が登場してから向こうの技術進化やら新型開発は加速度的に上がり、それを後から真似る程度のこちらでは到底追いつけない。
(例の『アレクサンダ』とやらのデータがあれば少しは違ってたのか?いや無い物ねだってもな)
一度アレクシアがそのデータを盗まんと動いたらしいが、彼女曰く『無理だった』らしい。流石にプロテクトが甘いような連中じゃなかったし、彼女曰く凄腕のハッカーが様々なトラップを巡らせており下手に突けばこっちがヤバい事になる、との事だったらしい。
今や例のW-ZERO部隊も壊滅した為現物は鉄屑状態、データも完全に抹消されて残ってない。入手確率は最早0%だろう。
いや仮に成功できたとしても、結局こっちで独自に作れる訳も無い為宝の持ち腐れ……やっぱダメじゃねぇか。
そこでアサドは考えを打ち切った。どうせ色々と考えるのは好きじゃないし何より苦手だ。そういうのは得意な奴に任せればいい。それよりも自分の命を預ける武器の最終確認だ。
アサドは自分に宛がわれたグロースターの調整を行う為、何やら息苦しそうにしているが満更な様子でも無さそうなイロナと、彼女にベタベタと引っ付いているアレクシアを放置してその場を後にした。
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