[37751] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-10『侍皇子と妄執の女…後編2』 |
- 健 - 2017年10月26日 (木) 00時08分
雛は舌打ちをした。敵の新型部隊はこちらに砲撃をさせまいと集中攻撃をしている。幸い、シールドを破るだけの攻撃力を備えてはいないが、振り切れない。
このままじゃジリ貧ね…
先にエナジーが尽きれば間違いなくやられる。どうするかと思った時、下から砲撃が来た。撃ったのは、ソティアテスだ。後ろからは美恵のヴィンセントとゲライントもやってくる。
〈殿下のご命令だ。後ろ備えの一部を前に出し、私達を上空の援護に回した。〉
アーネストは答えながら右手に持ったハドロン砲で航空部隊を撃墜し、美恵のヴィンセントは肘のニードルブレイザーで一気を撃破し、木宮のゲライントはKMF部隊をルミナスアックスで両断する。
〈ほら、さっさと撃って!シルは貴女に期待しているのよ!?〉
木宮に急かされるまでもなく、雛はチャージを開始する。
「チャージ94%で固定、発射!」
トリガーを引き、高出力のハドロン砲が発射される。砲撃は前衛部隊を通り過ぎ、後ろの陸上艦を襲う。ロックされたことに気付いても、余りに襲い陸上艦では逃げることが出来ずに本陣の陸上艦と護衛の数隻が撃破される。
「敵の本陣と他数隻を潰したわ……周りのKMFや戦車は逃げ始めてる。どうする、たたみかけにもう一発行く?」
〈いや…列車砲がまだ残っており、それが砲撃を続けている。陸上艦の動きは?〉
シルヴィオに言われ、ウァテスシステムで解析する。後退はしているが、こちらに向けて砲撃を行っている。一発、こちらに来るコースだ。シールドを展開してそれを防ぐが、凄まじい衝撃が雛を襲う。
「っ…こっちに後退支援の砲撃をしているわ。」
〈よし……前衛の戦力も大分削られているし、敵も後退し始めている。目的は達した、追わずとも良い。〉
〈よろしいのですか?〉
〈ああ、こちらが買い被っていた。今頃、敵の司令部は責任を誰に押しつけるか議論しているだろう。まあ、死人に押しつけるのが一番だろうがな。〉
流石にそれには雛も呆れた。一体、E.U.のお偉いさんはどういう頭をしているのだ?既に半分近くの領土を奪われているというのに、まだ責任転嫁だと?
「ああ……ウチのお坊ちゃんの爪の垢でも煎じて飲ませたらどうなるかしら?」
すると、ブランドナーから〈なんだそれは?〉と質問が来た。
「東洋の諺……簡単に言えば、バカを治すために立派な人の爪の垢を貰って煎じて飲めば治るって表現があるの。」
〈私も聞いたことある……でも、無理よ。あの革命政府のバカ共には。〉
美恵がそれを斬り捨て、木宮も〈ついでに言えば本国のお馬鹿さん達も。〉と付け加える。
「あと、『黒の騎士団』みたいなゴミ共。バカに付ける薬はないもんね。」
聞いていたシルヴィオはため息をついた。敵であるE.U.の政府ならともかく、仮にも同国人をここまで言うとは……全くそれだけの人生だったということなのは分かる。
「無駄口はそれくらいにしておけ……まだ戦闘は継続している。」
〈申し訳ありません。〉
イレネーの謝罪と共にエリアを連れてシルヴィオに合流した。
〈敵の新型…パイロットの力量も相まって侮れません。〉
「ああ……私が交戦していたシュテルンという機体のパイロット、あれは『ラウンズ』に匹敵する。」
〈『ナイトオブラウンズ』に相当する実力者がE.U.に?〉
その評価にエリアが驚愕し、アーネストも〈やはり。〉と唸った。
戦闘が終了し、帰還した雛はシルヴィオに呼び出された。
「何か?」
「特に用はない。お前のおかげで戦闘がより有利に運び、我が軍の兵士の犠牲も少なかった。」
「どうも……」
そのまま立ち続ける雛の後ろからシルヴィオが軽く背中を叩いてきた。
「座りなさい、お茶でも入れてあげるから。」
「そ、じゃあお言葉に甘えて…」
数分後、出てきたのはなんと緑茶とどら焼きだった。
「……なんで?」
「あたしがエルシリア様のところのクレア・エインズワースに材料分けて貰ったの。」
クレア・エインズワース……確か、彼女は日本文化の愛好家だったはず。まさか…
「あのお姉さん、こんなものまで作るの?」
「そ、シズオカのお茶よ。まあ日本時代に比べれば質は悪いけどね。」
「…それは質が悪くなる原因を作った国の皇子である俺への嫌みか?」
「それはそれ、これはこれよ。」
「相変わらず、良い性格だ。」
シルヴィオは軽く笑い、緑茶を一口飲む。雛もそれにならい、緑茶を飲んだ。
「で、話があるんでしょ?」
「ああ……ライルから聞いたのだが、お前はウェルナーと個人的に親しいそうだな?」
意外だ…まさか、ライル意外でウェルナーの話題を持ち出されるとは。
「まさか、取り入ろうとしているとか邪推してるの?八番目の部下が九十番台の皇子様に?」
それを聞きつけた貴族から色々と邪推されたことはあるが、それならば次期皇帝最有力候補のシュナイゼルや人の良いオデュッセウスを選ぶはず……大方、単にイレヴンが皇族と親しいのが気に入らないひがみだろう。
「そうではない……ウェルナーとの付き合いはあまりないが、先日ライルからお前がウェルナーの警護になることを期待していることを聞いた。」
「何、それ?あのお坊ちゃんが私を追い出したいってこと?」
「そうではない……お前の精神面でそれが良いのではないか、と思っているらしい。」
精神面?それが何故、ウェルナーの護衛に繋がる?
「それ、ウチのお坊ちゃんが本当に言っていたの?」
「ああ………」
なんてお人好し……いや、いらぬお節介だ。
「余計なお世話だって戻ったら言っとくわ。どら焼きはご馳走様。」
ゼラートは司令部が今回の反抗の失敗は全て司令官達に押しつけたという報せを受け、案の定だと思った。後方の連中も全く、ことの重大さが分かっていない。しかも……司令部からはふざけた命令が来た。
「これ、本当に?」
アレクシアの質問にゼラートは「本当だ。」とだけ答える。
「こんなクソッタレな仕事をやらせるなんて、つうかこれ意味あんのかよ!」
あると言えばある……上の連中の保身という意味では。
「ここまで酷いとすがすがしく思えるわ……」
イロナも既にあきらめの口調であり、ウェンディが紅茶を置いて質問する。
「どうするんです、そのゲットーへ行けという命令。」
「……拒否出来ぬであろう。全く………」
こんな命令まで押しつけられて……早々に見切りを付ける…いや、ゼラートは既に見限っていたが、そのタイミングを計っていた。何か、きっかけさえあれば……
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