[37736] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-10『侍皇子と妄執の女…中編2』 |
- 健 - 2017年10月16日 (月) 17時55分
先陣は雛が切ることになった。正確には………
「国境線からの砲撃?」
「ああ、敵は『ユーロ・ブリタニア』の列車砲を入手している。正確な数は不明だが、普通に進撃したのではこちらの被害が大きくなる。そこで、守りの堅いローレンスと私の旗艦でシールドの役割を担う。
「ちょっと、それ私に死ねってこと?」
雛はくってかかるが、木宮がそれを制する。
「最後まで聞け。一発撃ち、再度攻撃するには多少なりとタイムラグがある。母艦がその位置を推測し、こちらの列車砲でそちらに反撃する。それに併せてハリファクスも最大射程の最大火力で砲撃する。……最悪、列車砲は放棄する。」
雛は座り、シルヴィオの作戦を考え直す。つまり……こちらも同じ兵器があるのならば、敢えて捨てることも考慮して前線の戦力を削る気だ。
「作戦としては良いでしょう……あの列車砲は500qまでは確実に狙えますが、風向きや空気抵抗の影響も皆無ではありません。前進すれば着弾範囲に近づくリスクも艦のシールドを使えば多少は補えます。」
ブランドナーのフォローにシルヴィオも頷く。
「敵とて愚かではない。風向きなどを考慮し、こちらが風下にいる頃合いを狙う。私ならば、そうする………」
「…作戦は分かったけど、艦のシールド持つの?」
「分かっている……接収された列車砲の火力と計算した結果、ローレンスでは分からないが、ログレス級のシールドならば耐えられる。」
そして、こちらへ向けて風が吹いている。
「作戦開始!!」
母艦からフロートユニットを装備したKMF隊が出撃し、陸上のG-1からもKMFが発進する。
母艦からはシルヴィオのディナダンと木宮のゲライントが、更にアーネストが『ユーロ・ブリタニア』から受領したソティアテスと美恵のヴィンセントが出撃する。
遅れてローレンスも出撃する。
「ああ……とんでもない人の指揮下に入った。ウチのお坊ちゃんがいかにやりやすく、良い上司だったのか実感するわ。」
〈聞こえてるわよ?〉
オペレーターのミルカが雛を窘める。
「何よ、自分の男馬鹿にされて怒ったの?」
〈……なんで知ってるの?〉
「あのオカマに聞いた。」
〈………シルヴィオ様にとっては十年以上の付き合いの友人よ?〉
「……変な友達持ってるのね。変人度合いじゃウチのお坊ちゃんと良い勝負だわ。」
〈あのね……とにかく、わかりにくいけどあの人なりにライル殿下が送ってきた貴女を信頼してるの。〉
「……将来友達無くすタイプ?」
〈聞こえているぞ……無駄口は後にしろ。〉
シルヴィオだ……雛は「はいはい。」と答え、意識を戻す。
シルヴィオの分析通り、列車砲が発射されてきた。予定通り、上空の艦がシールドでそれを防ぐが、防ぎきれなかった弾は地上に降り注ぎ、KMFの一部が着弾の爆発に巻き込まれる。
〈怯むな!前進せよ!〉
艦上のサザーランドがヘリを撃墜し、ミルカが列車砲の位置を推測する。
「列車砲の位置、算出出来ました!西北西、400q!」
400q……解析したミルカはその距離に圧倒された。流石にあの列車砲の射程は恐ろしい。かつて、『ミカエル騎士団』が『ハンニバルの亡霊』を誘導するためにも500q離れた位置から砲撃したこともある。しかし…今回は100q短い。
〈こっちの列車砲側にも位置を送信するわ!細かい誤差はハリファクスのウァテスシステムでフォローする!〉
ローレンスの雛が細かい計算をフォローし、列車砲の推定位置を送信する。すぐにこちらから全く別の領地に配備された『ユーロ・ブリタニア』の列車砲の部隊もそれに対応し、発射する。
「敵艦には着弾しておりません!!」
E.U.軍は『ユーロ・ブリタニア』から得た列車砲で進撃してくるブリタニア軍を迎撃する。どうせ相手はイレヴンかぶれの皇子。最後は追い詰められてカミカゼをするに決まっている。しかも、自分達は只砲撃をすれば良いだけ。なんて楽な仕事だ。
砲台を指揮する大尉はこれによって昇進を言い渡され、更にキャリアを築き、万が一負けても責任を押しつけて占領後の地位も資産家の親の元で安定する……そう確信していた。
「敵からの砲撃です!」
「何!?」
何故?ここは敵最前線から400qも離れているのに!?
着弾の衝撃が周囲を襲った。鼓膜が破れるかと思った衝撃に覆っていた目を開くと、巌然には焦げたKMFの残骸や友軍の兵士だった物が転がっていた。
「ひ、ひぃぃぃ!!」
大尉は真っ先に逃げ出した。後ろでも同じように逃げ出す者が後を絶たない。負傷者の手当も状況の確認をする者など一人もいない……しかし、彼らに次の砲撃が来た。砲撃は列車砲を直撃し、発射態勢に入った列車砲の弾薬に引火………周囲の兵士達は一人残らず、跡形もなく消し飛んだ。
〈列車砲、沈黙した模様。〉
シルヴィオは頷くと同時に少々呆れた。あの列車砲だけで勝てる気になったのだろうか?だとしたら甘すぎる……細かい着弾地点は指定出来ないから、計算する役割もいればよりその威力は増す。だが…連中はその射程距離に気を取られた上に、こちらがあの列車砲をまだ有しているという発想が出来なかったのではないか?
ゼラートはシュテルンのコクピットであきれ果てた……まさか、こんなにあっさりと列車砲が攻略されようとは。しかも、敵のいる方向とは全く別の方向から撃たれたという…こちらが奪った兵器を相手が持っていることを何故考慮に入れられない?入っていたとしても、撃たれないと高をくくっていたのか?
〈ヴァントレーン中佐、何とかしろ!〉
司令官達が文句を言っている。だが……
「お言葉ですが、超長距離砲がもうない以上、こちらは戦線を下げて着弾範囲を出ること。まずはそれです!」
〈何、貴様!?我々に恥の上塗りをしろというのか!?〉
なんと愚かな……今すぐ引き返して撃ってやりたいが、それも出来ない。
〈我々は後退する!後は貴様らが何とかしろ!〉
「何も対策をせずに逃げ出せば、責任を全て押しつけられますよ?」
司令官達の顔が凍った……全く、この情勢でもそういう脅しが効くとは。もっとも、実際に軍上層や政府の愚か者共はこいつらを生け贄にするだろう。外人部隊を只の現場での捨て駒にすることしか頭になく、そんな連中では生け贄にもならないのも理解しているはず……
突然、前線部隊の動きが、いや…全体の動きが変わった。まともな指揮官でもいたのか?つい先程まで列車砲の破壊の報を受けたのか、逃げる一方だったのに……
シルヴィオは敵の動きの変化に気付く。そして、その中でインド軍区製と思しきKMFがいるのを見かけた。フロートユニットを装備しているが、とにかく動きが桁違いだ。
「川村、お前は後方の部隊への砲撃を行え!木宮は右翼、シェーリン卿は左翼を!十勇士は私と共に中央へ攻撃!前衛部隊を孤立させる!」
シルヴィオは操縦桿を思い切り前へ出す。目には目を…KMFにはKMF、そして……刀には刀。
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