[37717] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-10『侍皇子と妄執の女…前編1』 |
- 健 - 2017年10月02日 (月) 15時09分
秀作がエルシリアとセラフィナの軍に合流した頃、雛も迂回路でシルヴィオの軍に合流していた。
「第八皇子隷下特選名誉騎士団、川村雛少尉……到着いたしました。」
「ご苦労。シルヴィオ様の補佐を務めるザカライア・M・ブランドナー将軍だ……」
「ちょっと、ブランドナー……そういう固いの無しよ。」
後ろからやって来た人物に雛は息を呑んだ……
「い、イレヴン?」
「そ、貴方と同じイレヴンよ……あたしは木宮ユウキ。シルヴィオとは長い付き合いなの。」
口調が女性的で、香水の匂いもする……一体、どういう?
「貴方の噂は聞いているわ……ウェルナー殿下とよく会っていることと…その可愛い顔の半分も。」
「……へえ、だったらなに?いくら箱入り坊ちゃんでもこんな火傷女に靡かないって言いたいの?そこのおっさん達も…」
地が出た雛の態度に幕僚達がどよめき、敵意を向ける。しかし…木宮はペースを崩さない。
「あら、誰もそんなこと言っていないわ。人間中身よ?」
「中身だって性格ブスで顔は妖怪…………それで人間中身?馬鹿にするのも大概にしてよね、変態。」
「酷いわね、あたし乙女の気持ちを分かる男なのに。」
まるで崩れない……調子が狂うような相手だ。
「無駄話してないで…さっさと攻めないの?」
「それはまだよ。貴女の腕はライル殿下がよこすくらいだから高いって、ウチの皇子様は買っているわ。その機体をどう活かすか、考えるの。さ、いらっしゃい。こっちにいる間の部屋を用意してあるわ。」
羽田美恵は遠見に川村雛の顔を見た。酷い火傷だ……恐らく戦争で負った物だろう。元の顔がよく整っているから余計に憐れみを誘う。
「私もアンダーグラウンドのドンパチでああなっていたかもしれない、か。そうなればアーネスト様にも会えなかった。」
彼女には悪いが、比較すると自分がつくづくラッキーだと実感する。だが……エリア11に限らず名誉ブリタニア人の冷遇ぶりはE.U.の外人部隊と大きな差はないという…そんな中、皇族が試験運用する部隊に選ばれた上に最新鋭のKMFを任されるなど………彼女も充分にラッキーではないか。
それがあそこまで捻くれるとは……一体、どういう人生だったのか?
ウェルナーは電話で雛と話していた。話は、ライルの元からシルヴィオの元へ援軍として派遣されたということだ。
「シルヴィオ兄さんにはお会いしたのですか?」
〈まだ…ウチのお坊ちゃん曰く「自分と同じ相当な変わり者」だって話だけど?〉
変わり者……確かに、ライルもシルヴィオも相当な変わり者だ。だが、ライルは軍の方針が、シルヴィオは個人の趣味という意味でだ……
「僕も数えるくらいしか会っていないのですけど…あの人は武術に関する考えが変わっているといった方が分かり易いと思いますよ?」
〈武術?〉
「会えば分かります……それでは、余り無理はなさらないで。次の休暇でE.U.を観光した感想でも聞かせてください。」
〈はいはい……死なないよう頑張るから、あんたも歩行訓練ちゃんとやってよ?〉
「ええ、それは勿論。」
その日の夜……シルヴィオはおよそ2週間ぶりにミルカを抱いた。疲れ切った身体でシルヴィオにすり寄り、優しく髪を撫でるシルヴィオに目を細めるミルカが問いかけてきた。
「援軍のあの子……大丈夫でしょうか?シルヴィオ様を盾にするような…」
「されたら私がそれまでの男だったということだ…後は、あの娘が皇族を盾にするような真似をしたら自分がどうなるかを分かっているかどうか、だ。」
が、彼女の悪行は聞いている。ライル軍に編入されてからはそれが出来なくなっているとのことだが、歩兵の頃はまさに悪辣だった。テロリストへの騙し討ちは勿論、同じ名誉ブリタニア人の兵士だけを何度も盾にしたり、見殺しにしたという。
「……志願理由も生活費だ。死んだら生活もクソもないことを分かっているから、私を盾にするようなこともないだろう。」
しかし…本当にライルはとんでもない人間を起用する。あの日本軍人と名将の血縁、イレヴンと貴族のハーフ……一癖二癖どころではない人間を抱えて、よく精神が持つ。
「全く…馬鹿なのか、それとも脳天気なのか……」
「…シルヴィオ様なら、同じくらいの人を従えられます……」
ミルカが唇を重ね、吸い付く。シルヴィオも少しだけそれに答えてゆっくりと放す。
「そろそろ休め…」
「はい…お休みなさい。」
「ああ……」
すると、ミルカは反対を向くどころかシルヴィオに抱きつき、そのまま眠りについてしまった。
「……私を枕か何かと勘違いしていないか?」
だが…今まで相手をした女性と違い、彼女を突き放そうという気は起きず、ならばとシルヴィオはミルカをそっと抱きしめた。
木宮は『ユーロ・ブリタニア』のアーネスト・N・シェーリンと晩酌をしていた。
「良いの?美恵に相手をして貰わなくて。」
「私をルーカス殿下と一緒にするな…」
「そうね、ごめんなさい。」
つまみのチーズを一つ口に運び、木宮はビールを飲む。本国に行くと、どうもワインやブランデーといった上流系の酒が多いから、こういう大衆向けの酒を飲む機会が少ない。
「お前…本国でもシルヴィオ殿下にお仕えしているのではないのか?そういう飲み方は感心せんぞ。」
「ええ…でも、今はプライベートよ?それにビールを馬鹿にしちゃ駄目よ?ドイツの本場物やベルギーのビールは王様だって飲んだんだから。『ユーロ・ブリタニア』の貴族としてはたしなまなきゃ。」
そういわれ、アーネストが黙る。
「でも…こうして男友達と飲むのは良いわね。」
「おい、友人になった覚えはない。」
「何言ってるのよ?もう半年以上同じ軍にいるんだから。」
アーネストが深いため息をつき、ビールを一口飲む。
「お前のその口調と性格には着いて行けん。」
「お褒めにあずかり光栄よ?」
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