[37710] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-9『復讐者と皇女…後編3』 |
- 健 - 2017年09月28日 (木) 15時23分
アストラットの剣を池田が乗る蒼天が制動刀で受け止め、ブースターで押し切ろうとする。が、アストラットのパワーで踏み止まり、腰のハーケンが蒼天を狙う。僅かに頭部をそれ、距離を取って左腕を構える。輻射波動砲……ガウェインのハドロン砲を参考にラクシャータが改良した輻射波動を遠距離仕様とした武器だ。
しかし…先頭の機体はそれを躱し、後方にいたKMF隊と艦を一隻沈める。
〈やってくれたな!〉
再びアストラットが斬りかかり、蒼天は刀で受け止める。
こちらの間合いを忘れたか!?
刀を受け流し、左腕でアストラットの頭を捕らえる。が、それより先にアストラットが投げた剣に左腕が貫かれた。
「ち!」
胸部の機関銃で池田は後退する。
「陸上は囮だ!敵は艦隊を空中から攻撃するつもりだ!!」
指示を受けた航空機部隊がアストラットを中心としたKMF隊へ向かう。だが……
「秀作、下がって!」
セラフィナはベイランの両肩に搭載されたハドロンブラスターを連結させ、長距離ハドロン砲フェイルノートにして砲撃を行う。ゼットランドのハドロンランチャー以上の射程距離を誇る砲撃で秀作が交戦していた隊長機と随行するKMF部隊には逃げられた。だが…ヘリや戦闘機は殆ど撃墜された。
「今のうちに艦隊へ!」
セラフィナの号令でKMF隊が艦隊が停泊する港へ突入する。既に艦隊は迎撃を整える…いや、逃げようとしていた。港には市民や兵士が集まり、何か叫んでいる。
なんてこと…!港の友軍や市民を見捨てて自分達だけ逃げようだなんて!
だが……ある意味安心した。秀作の手に戻ったあの装備はあまりに港に近いと、無防備な人間をも巻き込んでしまう。
〈もう良いだろう……さあ、蜂の巣になって貰おうか!!〉
アストラットが両腕に装備したロケット砲を艦隊へ向け、発射する。砲弾はそのまま艦隊へ直撃…することなく、上空で爆発し、無数の弾丸が降り注いだ。弾道の中身はケイオス爆雷だ。改良によってバズーカの砲弾として利用出来るようになったこの装備を秀作は艦隊への直接攻撃に利用すると提案、同じ運用を既に『グリンダ騎士団』も行っており、艦隊の自爆に対する備えとしても有効であった。だから、エルシリアはこの案を認めた。
続けざまに他のサザーランドやグロースターも同じ攻撃を行い…艦隊に容赦のない弾丸の雨が降り注ぐ。あれでは、艦内の人間はミンチより酷い状態であろう……
セラフィナは顔を背けた時……
「秀作、右!!」
セラフィナの声に気付き、右を見ると先程と違うKMFが襲いかかってきた。
シールドでその攻撃を受け止めると、パイロットの通信が入った。
〈よくもやったわね!『裏切り騎士団』!!〉
若い女の声だ。
〈貴方でしょ、畑方秀作は!?〉
「…ほう、俺も有名になったな。………いや、奴が有名なだけか。」
敵を押しのけ、バズーカを捨てて剣を抜く。敵も槍を構える。
〈何故……ブリタニアは貴方のお爺さんと両親を殺した!何故、名誉ブリタニア人になるの!?〉
また、同じような問いだ。全く……どいつもこいつも同じようなことを言う。気を許しているとはいえ、ライルやセラフィナまで何故それを持ち出すのか。それだけは秀作は理解出来ない。
「何故、どいつもこいつも肉親なんて物を持ち出す?あんな物まやかしだ。敵だというのに。」
敵?肉親が?
浅海は分からなかった。何故、日本軍人の孫が祖父を…いや、その前に何故肉親を否定する?生活のために復讐より恭順を選んだ人がいることはもう知っているし、認めない訳じゃない。しかし…肉親を敵?
〈奴のせいで俺は人形だった。あの妖怪夫婦は名声欲しさに俺を人形にし、周りの日本の魔物共も俺が独立させるなどと決めつけた………だから、復讐して俺になる!俺は生まれるのさ!!〉
アストラットの剣を浅海のソレイユは最強の槍アラドヴァルで受け止める。
「貴方が貴方になる…生まれるって、どういうこと!?」
〈言葉通りだ!俺は16年間『将軍の孫』だった!それ以外認められず、『奴の孫なら独立させろ、従うな、日本人らしく死ね』だ!!そんな魔物共を皆殺しにし、食い尽くして、初めて俺は畑方秀作になるんだ!!〉
その言葉に浅海は理解した。この男は、自分の犠牲者だ。浅海自身、枢木スザクや畑方秀作のあり方を『首相の息子』、『将軍の孫』という理由で認めなかった。だが…ライルと出会い、『黒の騎士団』の仲間が名誉を皆殺しにすると主張するのを見て、わかった。自分がいかに勝手だったのか…
「でも…私は両親をブリタニアに殺された!だから、せめて両親と過ごした日本を取り返したい!!」
〈それがまやかしだ!貴様の親はそういう呪いをかけた!!ことわざには『親の仇』などという比喩もあるが、何故親の仇になる!?感謝するべきだ!!俺は獲物を横取りされたが、ブリタニアに感謝している!!忌々しい妖怪共を殺してくれたのだからな!!〉
浅海は戦慄した……獲物、おそらく祖父と両親だ。それを殺したかった?まだ9歳程度で?一体…何が彼をそこまで………しかし…
「親を殺したいほど憎いのは貴方だけでしょ!?みんながみんなそうじゃないの!!名誉になれる人となれない人のように!!」
アラドヴァルでアストラットの剣を押しのけ、突き出す。アストラットはブレイズルミナスを展開するが、パワー負けして右腕ごとシールドを失った。
〈貴様!〉
おそらく…他の日本人ならば『ライルが畑方将軍の孫や日本軍人を洗脳し、操っている。』などと言う。昔の自分でもそうだっただろう。
「貴方を全部否定しはしない。親や日本が憎いのも本当なんでしょう……ライルが洗脳したなんて言わないわ。でも……世界中全てが親を殺したいほど憎い人間だけじゃない。」
〈………理解に苦しむ。世界がおかしいのが何故分からない?〉
酷い……ここまで、心を閉ざすとは。名誉ブリタニア人を裏切り者の一言で片付けていた自分でもここまでなかっただろう……
浅海はアラドヴァルでとどめを刺そうとした時……後方の砲撃があった。
インド軍区から裏取引で得たKMF隊だ。
〈後退だ、美奈川!これ以上の戦線維持は出来ない!!〉
「……了解。」
秀作は交代するKMF隊を追うが、セラフィナのベイランが腕を掴んだ。
〈もう、充分よ。目的果たしたわ……〉
「セラ…」
〈残った艦隊も降伏して、援軍も引き返している。貴方の作戦勝ちよ………無茶しないで?〉
また泣きそうな顔をしていた。秀作は逡巡し…「分かったよ。」と頷いた。
〈戦闘状態を維持したまま姉さんの部隊と合流しましょう。〉
〈では、我々がしんがりを務めます。お二人はお早く。〉
ウィンスレットが進言し、二機は先に後退する。
ウィンスレットと共に紺と白銀に塗られたヴィンセントで後方を警戒するルビーは秀作の言葉を聞いていた。
「なんて、歪な男なの?」
一体、何が彼をそこまでさせたのか……いや、聞いていれば分かる。日本の閉鎖的な考えと彼の両親のエゴだ。テレサを養子に出したのも確かに、ある意味でエゴだ……だが、両親にはそれなりの葛藤があった。秀作の両親と彼に『将軍の孫』を強要する日本人にはそれがない。
「………イレヴンにも色々いると言うことか。」
ルビーは騎士でありながらユーフェミアを守れなかったスザクや『ラファエル騎士団』を壊滅させたシンに対する恨みからイレヴンには形容しがたい偏見が、恨みがあった。だが………
「親の敷いたレールを走らされるのは、どこの国でも同じ…か。」
ユーフェミアとは本国にいた頃、同じ学校に通っていたこともあってか仲が良く…テレサもそれを通じて親しくなっていた。彼女から、好きな人がいるというメールも見た。何となくだが…それが騎士にした名誉ブリタニア人であると思った。そして…今の主君であるセラフィナも……おそらく秀作も自覚はないが………
「とんでもない身分違いのロマンスを近くで見るなんて……お願いだから、二度目はやめてよ?」
|
|