[37701] コードギアス 追憶のエミリオ intermission 大魚 |
- JIN - 2017年09月22日 (金) 20時20分
アラスカ。
そこはかつて旧帝国の一部であり、かつては北ユーラシア地域への重要な前線地帯。
現在その地域には、いわゆる旧帝国派と言われる旧貴族層や軍が盤踞し続けており「最後の旧帝国」とも呼ばれている。
彼らは現在の新体制のブリタニア本国にも屈せず、かつては間借人とまで蔑んだ旧ユーロ・ブリタニア勢力、更にはヴェランス大公家の風下に立つ事をも快く思わず、いまだ旧帝国の一部であった、この地域にしがみ付いている。
しかし一年前の「デボンシャーの乱」にてカナダ北西部を失った事もあり、本国への恭順もしくは北ユーラシアに流出する者たちは後を絶たない。
それでも本国としては、出来れば同胞の血をこれ以上流したくないという配慮もあって、実力平定は控え続けている。
(そしてこれには当然、表の建前とは逆に、ブリタニア同士の衝突と損耗を内心では望んでいる、超合集国連合への対処でもある。)
アンカレッジ。
ただでさえ冬季は厳しい土地柄ではあるが、それを取り巻く環境は更に厳しさを増している。
その一角にあるビルの一つ。
そしてその部屋の一つ。
目の前のスクリーンに映されている様々な動きの数々。
それをじっと見つめている二人の男。
それを一通り見終わった後、傍らに声を掛ける一人。
「以上が北ユーラシアへの様々な伝手を使って得た、この度のウスリーでの戦闘の可能な限りの詳細だ。どう思うかい。フェルナー子爵?」
「まさに見事としか言えない動きですね。噂のナイトオブリングス」
「ふふ。まあエイゼンシュタイン侯爵に見せたら、あちらの連中のフェイク情報だと頭から決め付けてかかりそうだけどね」
「特にあのグリンダ騎士団のジヴォン騎士団長を破ったという、エミリア・バーンスタイン嬢に関しての部分ですか?」
「侯爵は彼女の追放ひいては抹殺をも図ったからね。まあそれは彼女の嫡姉であるアメリア嬢の意思を受けてだったわけだが」
「覚えてますよ。酷いもんでした。せっかくここまでやってきた妹君を人前でも『役立たず』と散々に罵り、打ち据え、更には足蹴にまでしたんですから」
「それを止めさせた一人が君だったね」
「ディートリッヒ伯爵もその一人だったでしょうが」
「ふふ。そうだったかな」
「アメリア嬢は彼女を『あれは父様の子じゃない』とまで言ってましたね」
「まあそこまでは分からんが、亡きバーンスタイン侯爵御自身が公の場で御披露目した以上は『庶子』だからね。それに逆らうのはむしろ親に対する不敬にもなる」
「だから贔屓のエイゼンシュタイン侯爵もそこまでは加勢しなかったわけですが、どうして侯爵はあそこまでアメリア嬢に肩入れを?」
「あるいは侯爵としては、バーンスタイン家の『隠れた護符』が欲しかったのかもね」
「ああ。ブリタニアに伝わる例の言い伝えですか。『歴史の転換にバーンスタインの名あり』との」
「そう。表立っての動きは無いが『皇位継承の縺れなどの歴史の節目には必ず出てくるバーンスタインの家名』という。エイゼンシュタイン侯爵としては、嫡女たるアメリア嬢こそがそれを持ってると思ったのかもだが」
「確か初代のナイトオブラウンズの中にもその名があったとも言われますね。私はそういうのは信じませんが。信じるとすればその『護符』を持っているのは、むしろエミリア嬢ではなかったかと思います」
「血がつながってなくとも?」
「伯爵も先ほど言ったではないですか。『血』ではなくて『名』なのだと」
「ふふ。まあ最近ではエイゼンシュタイン侯爵も本心ではそう思いつつあるのかもね」
「なるほど。だからアメリア嬢も不行状を繰り返してると」
「扱いが悪くなっての不安もあるだろうしね」
「とにかくあの時点で、自分たちに出来たのは彼女たちを北ユーラシア方面に逃がす事だけでした。それ以降は彼女たちの力であり、そして今のヴェランス大公の御見識でしょう」
「彼女たちがいなくなってから『デボンシャーの乱』の失敗とかいろいろと重なったからね。そして混乱状態だった北ユーラシアはいまや新国家樹立の一歩手前まで来ている。エイゼンシュタイン侯爵としてはますます意固地にならざるをえないというところだろうね。妹君まで思い通りにならないし」
「そういえば。侯爵の妹君のエーリカ様は伯爵の許嫁でしたか」
「昔の事さ。婚約破棄は彼女がエカテリンブルクの『殿下』と合流するためアラスカを離れた時に向こうから告げられている。ここを離れられない自分では彼女の役には立てないしな」
「エーリカ様もあくまで旧帝国の復活を願われているわけですか?」
「正確には嫡祖父であられるシャルル大帝のような偉大なる絶対君主に『殿下』を育て据える事さ。但し侯爵としてはあくまで自分たち貴族の傀儡象徴としての存在にしたいのが本音だ。まあ大帝の厳しい御査定に晒され続けた大貴族の立場としては当然だろうが」
「それで次には傍系のアリューシア伯爵を立てられようとした」
「ああ。シャルル大帝の血を引かない伯爵ならより好都合だっただろうが、あいにくそれが露骨に出てしまい、伯爵の怒りを買ったらしいがね」
「まさか出ていくとまでは思わなかったでしょうね。しかもそのアリューシア伯爵まで加わっているというのが今回のリングス。いまや北ユーラシアの最大門閥にまでなったアレキサンダー一門の継承権者までいるという、その陣容には恐れ入ります」
「本来ならば戦場に出すわけにはいかないような国家級の重要人物ばかりだからね。その意味ではあのラウンズよりも上かもしれない」
「しかもそれが単なる御飾りではなく、最精鋭として実際の戦果を出しているわけです。全く恐ろしい限りです」
「彼らを編成した、現在のヴェランス大公も含めてでね。それにしても」
「なんです?」
「このリングスに、このアラスカから加われる者がいるとすれば、君くらいな物かな?」
「お戯れを」
|
|