[37697] コードギアス 戦場のライルB2 BERSERK-9『復讐者と皇女…後編1』 |
- 健 - 2017年09月22日 (金) 11時13分
エルシリアは小競り合いを終わらせるべく、総攻撃を決定した。本土への海路を確保するためには奪い返された地中海を抑えなければならない。だが、海上戦力が充実している上に警戒もされている。否が応でも陸路で攻めるしかないのだ。
「海上の戦力との挟み撃ち、とは行かないが…俺が先陣を切って攪乱するのはどうだ?」
ブリーフィングに出た秀作が意見を述べる。全員の視線が注目する中、秀作は意見を述べる。
「大西洋側にだって少しは友軍がいるだろう?」
「いない事はない。だが…警戒がこちらと並び厳重だ。」
「だから、そこを突く。俺が艦隊が停泊している場所まで突っ込んで、暴れる。まさか向こうだって飛べるKMFがいきなり単独で来るとは思わないだろう。アストラットのスピードならヘリ程度問題にならん。」
エルシリアは秀作の意見に数秒沈黙する。確かに……こちらの飛行可能なKMFで最も速いのはアストラット……それを単独で好きなだけ暴れさせるのは囮としては有効だ。
「だが…お前の安全は度外視されている。それは………」
「適当に暴れたら帰ってくる。前回のようなことはしない。大体、陸と海を同時に引っかき回されたところで攻める…オーソドックスでも確実だろう?仮に失敗しても死ぬのは俺だ。」
「秀作!」
セラフィナが声を荒げ、それに反論する。
「セラ…控えなさい。………分かった、その代わり条件がある。」
「なんだ?」
「セラ…この無礼者を見張りなさい。」
自分でも驚いた。だが…この男が暴走しないとも限らない。何せライルの命令でも暴走したことがあるのだ。ここで一番秀作が言うことを聞きそうなのはセラフィナだけだ。
「姉さん?」
「艦隊へ上空から攻撃をする、という意味でも貴女の機体の方が適任だわ。これが理由……ある程度、艦隊と基地を攻撃したら戻ってきなさい。司令部や艦船に攻撃を集中すれば、都市部への被害も抑えられるでしょう?」
セラフィナが納得、不満を半分ずつ顔に出しながら「分かりました。」と答える。
「畑方秀作…他に何か要望があれば聞くぞ?お前が立案した作戦だ…」
「………アストラットに追加で持たせたい武器がある。」
グラビーナはエルシリアに確認を取る。
「本当によろしいのですか、エルシリア様?」
「何がだ?」
「あの男です……セラフィナ様を撃墜するようなことはないと思いますが…逆に……」
なるほど……セラフィナを殺すようなことはなくとも、先行して巻き込むようなことはないか、と言いたいのか。
「それはそれで…イレヴン達がカミカゼで皇族を殺したとはやし立てる、と言っていた。セラだけ下がらせて自分だけ死ぬだろう。」
とはいえ…自分でも言っていて気分が悪くなる。区別…ひいては差別は必要だとエルシリアも考えるが、ブリタニアの将兵である上に義弟から預かった兵士なのだ。死なせるわけにはいかないのだ。
「あの男はセラには随分と気を許しているらしくてな。私やお前が行くよりは手綱を握ってくれるだろう。」
とにかく、あの暴れ馬…と言うより魔獣を御せる人間がいるとすれば、現状ではライル以外にセラフィナしかいないだろう。
ウィンスレットはため息をついた。憂鬱だ………エルシリアから渡された記録は見た。秀作の凶行の数々に幕僚達は本当に何人かが嘔吐し、彼を恐れた。14の子供であんな…権威主義、特権意識の強いブリタニア兵でもあそこまでしない。
一体、何をどうしたらあんな子供が育つ?日本占領であそこまでなるか?いや…おそらく、あれは彼の家が彼自身をあそこまで歪めたのだろう。
記録で見た発言だけで推理するならば……祖父の名を押しつけられて育ったか、比較された両親のエゴを押しつけられたのだろう。それ故に自由に生きたことなどなく、周りのイレヴン達も彼に祖父の名を強要した。その通りならば…ああなるのは必然だ。
独身ではあるが…あのような子を育てる親にはなりたくないな。
セラフィナは専用KMFベイランの調整を行っていた。秀作の提案は聞き及んでおり、彼女もそれに協力する気でいた。だが……
絶対に死なせないわ。だって……復讐だけの人生なんて悲しすぎる。
あの時、復讐のために生まれたと言った。だが…本当の意味での人生は復讐を遂げた後だ。復讐を止めることは出来ない……それは、あの異常なまでの憎悪を見れば明らかだ。
せめて…秀作が人並みの人生を、幸せを理解するのを見たい。だって………
池田誠治はアフリカ側に呼ばれていたが…心底あきれ果てていた。正規軍の殆どは後ろに控えており、前線は外人部隊に預けている。確実に逃げるためだ。
状況を分かっていないにも限度がある………陸路と海路でフランスを挟まれればおしまいだというのに…
池田は呆れながら、ブリーフィングに耳を傾ける。
「敵は、地中海の艦隊を囮に平押しでアフリカ大陸沿岸を取りに来る。我が軍はその艦隊を無視し、対地ミサイルを一斉に浴びせる。これで勝利だ。」
戦術としてはありだ……しかし………
「本当にそれだけで良いのですか?」
池田は質問をし、正規軍士官が嘲笑の目を向ける。
「なんだ、池田少佐?」
「確かに、敵が最も取る動きです。しかし…敵の指揮官は『双剣皇女』と呼ばれるエルシリアとセラフィナです。読まれているという…」
「君は只命令に従えば良いだけだ…」
取り合わない。無駄を承知で、池田はふるいをかけてみる。
「もし…完全に読まれれば司令の責任となりますが………」
「何を言うか。これだけの戦力に小手先の手が通用する物か。」
「………了解しました。」
戻った池田を出迎えたのはオランダから派遣されたデルク・ドリーセンと元『黒の騎士団』の美奈川浅海だ。
「どうだった?」
デルクの問いに池田は首を横に振る。
「取り合わん……大方、何かあっても我々を盾にするつもりだろう。」
「そんな…首都が落ちたらまずいって分からないんですか!?」
浅海の質問にデルクは「分かっていないんだ。」と答える。
「だが…我々もここでやるしかない。全く………酷い世界の酷い時代に生まれた物だ。」
次の世代を担う若者達がこれをより酷くするのかと思うと……いっそ、誰でも良いからこの世界を壊して欲しい。池田はそんな藁にも縋る願望を抱いた。
浅海は自分のしていることがもう、分からなかった。少しでもブリタニアと戦うためにE.U.に来たのに、待っていたのは只の捨て駒扱い。同じ捨て駒でも浅海が聞いた名誉ブリタニア人の一般的な扱いより酷い。ただ、正規軍の身代わりにするだけで他には有効活用しない。
挙げ句、東に『ユーロ・ブリタニア』、西にシュナイゼルと『ラウンズ』を要する本国の軍がいるというのに、政府も軍も保身しか頭にない。
これでは……只一年を無為に過ごしてきただけだ。浅海もその中で、何も出来ていない。新型のKMFを貰ってもそれを活用しようとしない。どいつもこいつも…責任転嫁ばかりだ。すると……また、彼の顔が浮かんだ。
ライルに…会いたい。会って、彼の話を聞きたい。
秀作が更に進言した。攻撃は都市付近の砂漠に砂嵐が吹き荒れる頃を……パンツァー・フンメルは射程距離が持ち味、それに対してサザーランドは格闘戦と中距離戦闘、わざわざ敵に合わせる必要はない。KMF戦は有視界戦闘の色合いも強いのだ、そのアドバンテージがこちらにある。
そして…エルシリアの母艦からアストラットが発進し、後にベイランとウィンスレットのヴィンセントが続く。残りはエルシリアのベイリンがクレアとグラビーナのヴィンセントを中心とした陸上部隊で攻めることになっている。上空に待機させたサザーランドアイ部隊のウァテスシステムを目にして。
〈畑方少佐、ご要望のあった装備の搭載完了しました。〉
「ああ…で、砂嵐は?」
「吹き荒れております……観測機の分析では、敵も動けない模様。」
この砂嵐では攻めて来まい、と思っているか。これが白兵戦ならばマスクを装備して攻められるぞ……
「エルシリア皇女……俺は出られる。」
〈全く…無礼な男だ。〉
「何しろ、魔物共の道具だったからな……道具が礼儀作法など知るか。」
〈お前の歪な家庭の愚痴は聞かん………作戦開始!〉
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