[37693] コードギアス 戦場のライル SIDE OF WARFARE 『傍流の騎士達…後編』 |
- 健 - 2017年09月21日 (木) 12時33分
ヴァルター・E・クルークハルトはロシアから連れて来られた少女が自分のベッドに眠る姿を見下ろし、軽く髪を撫でた。ルーカス軍に編入されて数日後に攫われ、ルーカスがあてがったのだ。最も…クルークハルトはそんな気はなかった。年齢もあのアシュレイ・アシュラとそれほど差はないだろうに……
他にも何人か、若い女性が攫われて数人はルーカスの元に連れて行かれ…残りは続けざまに部下の相手をさせられていた。チラリと様子を見たが、放心状態になっている者が殆どだった。
何とか、降ろしてやらなければ。
「そう、そっちは大丈夫そうなのね。」
ルビー・メイフィールドは妹のテレサ・スクラーリと電話をしていた。
〈ええ…皇族運が良かったみたい。〉
「私達、そういう方面で運は強いみたいね。」
ルビーが配属されたエルシリアの軍は女性比率も高く、皇族の二人も傍流だからとあれこれ言わないから気が楽だ。
「ねえ…ライル殿下ってどう?良い男なんでしょう?」
〈…まあね。顔は良いわ……周りに女の子が多すぎるけど。〉
含みのある言い方にルビーは微笑した。確かに…この一年でライルは多くの女性を側に置いている。しかも…ナンバーズや庶民が多い。色々と言われるのも無理もない。
「貴女はどうなの?結婚すれば、貴族になれるわよ?」
〈……笑えない冗談やめてよ。あの『閃光』のお后様じゃないんだから。そういうお姉ちゃんは?〉
「うーん……私はパス。好みじゃないの、あの人。」
確かに、良い男だ。だが……どちらかと言えば、シルヴィオ・ロ・ブリタニアのようなストイックなタイプがルビーの好みだった。
「ああ…シルヴィオ様の軍が良かったわ。」
〈それ…エルシリア様に聞かれたら怒られるわよ?〉
アーネスト・N・シェーリンと羽田美恵はシルヴィオから急な模擬戦を言い渡された。動機は…配属時に抗議した美恵の熱意に側近の木宮ユウキが感化され、実際にどれほどの実力かを早い段階で試した方が良い、と進言したという。
「ルールはお互いにKMFはグロースター、武器はライフル以外は自由。良いわね?」
木宮のルール確認に三人が頷いた。試合開始は二日後……
アーネストは機体の武器にランスを選び、美恵は剣を選んだ。
「あの方は私達を甘く見ておられるのでしょうか?」
美恵の問いにアーネストは数秒唸る。
「違うだろう……試しているのかもしれない。」
そう、これは試験だ。『ユーロ・ブリタニア』の大貴族軍がどの程度の力か、計るための。
「勝てば、我々の…アーネスト様の力を示せる、ということですね?」
「そうなる…」
クルークハルトは『ウリエル騎士団』時代に知り合った貴族に補給部隊へ紛れ込んで貰い、追加であてがわれたイタリアの女性とロシアの少女を預けた。
「では、くれぐれも彼女達におかしな真似はしないように。」
「無論ですとも。『ユーロ・ブリタニア』の名に誓って。」
「……頼む、私はサン・ジル卿の名誉のためにもこの軍を離れられない。」
そう、やるべきことは変わらない。この軍で実績を挙げ、サン・ジル卿の汚名をすすぎ、『ウリエル騎士団』の力を示す。
勝負は数分でカタがついた。美恵が後方で援護し、アーネストが前に出る戦術に対して、シルヴィオは刀で迎え撃った。それに対してシルヴィオはアーネストのランスを刀で受け流し、そのまま後ろにいる美恵に突っ込む。美恵は剣を抜いて斬りかかるが、シルヴィオは剣を受け流すと同時に屈んでグロースターの足を破壊、ライフルでコクピットを撃った。更にアーネストの機体もランスを持った腕を刀で切り落とし串刺しにしてしまった。
アーネストは機体のコクピットで唖然とした。勝つ自信はあった……二人共それだけの実力を持っていた。だが……負けた。
「…まだまだだ。」
シルヴィオの評価はそれだった。何と言うことだ……こうもあっさりと負けるとは。
「が……前途は有望だ。先陣を任せるだけの能力はある。驕らないだけに十分な。」
「そ…それって……認められたと言うことですか?」
美恵の質問に、外野にいた木宮が頷く。
「口下手でごめんなさいね。でも、貴方達をそれくらい高く評価するってことよ。」
これだけあっさりやられて……あの人は、一体。
そこが知れない……だが、アーネストは自分の中で『ユーロ・ブリタニア』の貴族としての矜恃以外に別の感情が沸き立つのを感じた。それは……
超えたい…あの皇子を、超えたい。
ルビーは立ち寄った基地のバースペースでカクテルを飲んでいた。と言っても…ジュースの比率が圧倒的に高い物だ。
「『ラファエル騎士団』とは勝手が違うわね、やっぱり。」
が、文句は言えない。エルシリアとセラフィナは方針がそれぞれ逆に等しく…その意見調整を幕僚達が行っているという。そのとばっちりが来ないのは嬉しい。彼女の部下達ともそれなりに上手くやれそうだとは思う。
「……テレサがいた孤児院にいる子達への土産話にはなるわね。」
また、いつかみたいにテレサと二人で双子である事を利用して少し、からかってあげよう。そう思い、ルビーはカクテルを飲み干した。
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