[37686] コードギアス 戦場のライル SIDE OF WARFARE 『傍流の騎士達…前編』 |
- 健 - 2017年09月18日 (月) 18時09分
テレサ・スクラーリがマルセル・コヴァリョフと共にライル・フェ・ブリタニアの軍に配属され、一ヶ月が経とうとしていた頃……エリア11内で外出の許可が下り、テレサは買いものに出ていた。
一人で行くつもりだったのだが……
「なんで、あんた達もいるのよ?」
先日、買われた後保護と押しかけが合わさった形で入隊した名誉ブリタニア人の姉妹、クリスタルの三人がいた。
「良いじゃない、これから同じ釜の飯を食うんだから。」
「それ…イレヴンのことわざ?」
イレヴンという呼び方に今同じ釜の飯と言った姉の木藤涼子が若干眉をしかめるが、深呼吸をする。
「まあ…ね。同じ屋根の下で生活するともいうし。」
なるほど……確かに、軍である上にライルの軍は各エリア、或いは外交やその警護における諸外国への遠征が主任務だ。一カ所に落ち着くことはない。
「で、何買う?私はライル様ゲットのために下着とか……夏場なら大胆な水着が買いたいのよね。」
よくもまあ、こうも堂々と言える。妹の優衣がライルに随分と積極的なのは既に聞いているが、ここまでとは……侍女の飯田有紗とあの事務次官の事件絡みで気まずい雰囲気なのは聞いている。なんでも…以前は時折、恋人のような雰囲気があったとクリスタルや親衛隊の先輩達から聞く。
「その前に…大丈夫なんですか?いくら名誉でも、イレヴンの私達が租界を当たり前のようにうろついて。」
「大丈夫よ…私がいるんだもの。将軍や隊長がガードに着くようにって。」
あの二人から…確かに、優衣と涼子は護身術は素人だし…顔もよく整い、身体もオークションの目玉になるだけあり、クリスタルと同じくらいに豊かだ。だが…それがテレサに逆に敗北感を突きつけている。
マルセル・コヴァリョフは長野と将棋という日本のチェスを打っていた。
「自分の国が収容所に入れている民族と、こうしてチェスを打つとは…思わなかった。」
「君は…確か、E.U.……ロシア出身だったな。」
「ああ……家族をE.U.の正規軍に殺された。だから…俺は軍人が大嫌いだ。」
思い出すだけでも忌々しい……非難しようと車を走らせていたところで………パンツァー・フンメルと軍の装甲車が現れて、車から降ろされた。そして…奴らは自分達から水と食料…金銭を奪い、縋った両親を…妹を……撃ち殺した。
『何故!あんた達は俺達市民を守るのが仕事だろう!?』
『ああ、だから俺達は市民を守るために戦う……お前らが俺達に協力するのは当然の義務さ。』
『負けちまったからな……だが、撤退してロシアを取り返すためにお前らは協力する。そんなことも分からないのか?』
マルセルは絶望した……体の良いことを言っていても、只の方便だ。
『おい、早く行くぞ。』
『ああ……じゃあな。強力感謝するよ?』
逃げていった軍を見送ったマルセルは両親と、妹の脈を測る……即死だったのは一目瞭然だった。だが…僅かな希望に縋り、踏みにじられた。
それから、1時間もしないうちに『ユーロ・ブリタニア』のKMF隊がやって来た。銀と緑のサザーランドだ。
「おい、どうし…これは!?」
緑のパイロットスーツを着た騎士達が駆け寄り、マルセルの前で手を上下する。
『ユーロ…ブリタニア?』
『生きているか……お前の家族だな?』
『…ああ………さっき、ロシアの正規軍が食料や金を奪って…殺した。』
『何?それは本当か!?』
『ああ……パンツァー・フンメルもいた。』
『おのれ……!なんと、卑劣な!自分達が守るべきはずの市民から食料を奪い、挙げ句の果てに命まで奪うとは!』
『我らと同じ軍人というだけでも罪だ!!』
騎士達はE.U.の正規軍を非難する。それを呆然とした頭で聞いていながら、マルセルの目には彼らが本当に高潔な騎士に見えた。
「なるほど……その時保護してくれたのが『ガブリエル騎士団』だったのか。」
「あの後…ヴィヨン卿と面会し、大公閣下の理想を聞かされた。感銘を受けたよ……そして、俺は確信した。三百年前の革命の精神はもう消えた………正しき志を持った高潔な貴族団…『ユーロ・ブリタニア帝国』こそ俺達E.U.市民の国であり、ヴェランス大公閣下こそ俺達の王だ。俺は……それを伝えるために軍に志願し…『ガブリエル騎士団』で戦った………だが!!」
『ミカエル騎士団』の事件は長野も聞いている。ライルは本国への逃走を図った総帥達の潔白を主張していたし、『ミカエル騎士団』全総帥の自決も疑っていた。
「その男と同じイレヴンと肩を並べるのは不服か…?」
「………まだ、信用したわけじゃない。ライル殿下の女達もだ。」
随分と彼はイレヴンの女を侍らしている……あの侍女とハーフに…新たに志願した秘書官候補と技術者候補も………
「主君の名誉のために言うが…殿下はあの姉妹は勿論だが、飯田やスレイダー卿ともそういう関係を持ってはいない。」
「………そういうことにしよう。」
「殿下には黙っておく…王手。」
逃げられない……全く、チェスと要領が違いすぎる。エリア11成立以前にイレヴンの友人がいれば、将棋を勉強しておけば良かった。
四人はイケブクロのショッピングモールを訪ねていた。下着を選ぶ際にはクリスタルが涼子の胸を急に触りだし、悪乗りした優衣も荷担した。かと、思えば優衣までクリスタルに胸や尻を色々と触られ、とにかく恥ずかしい場面だったので逃げた。だが、賢明だったかもしれない。危うくテレサも巻き添えを食うところだった。
あ…あれだけ大きい胸なら……確かに商品になる。………だから彼はあの二人や飯田有紗を?いや、それはないな……少し会話をした事もあるが、女性には紳士的というか…奥手なタイプだ。むしろ、今隣にいる優衣がライルを誘惑する展開の方がしっくりくる。
「何よ、人をじろじろ見て。」
よく見れば、腰は涼子の方が細いが、胸や尻では優衣の方が上だから……二人共同等に見える。女の自分から見てもそそられそうだ。外を歩いていた時から、どうにも周囲の男の視線が注目していたのも、これならば納得がいく。
「貴女なら、殿下を誘惑する絵がしっくりくるって思ったの。」
「何、それ?嫉妬?」
「なわけないでしょ。」
「あら、もう仲良くなったの?」
クリスタルと涼子が服や下着の入った袋を持って戻ってきた。
「ちょっと、違うわ。」
「……それじゃあ、食事でもしない?クリスタルさんの奢りで。」
「なんで、私が?」
「なんでって………私達の胸とかお尻触ったのよ!?女同士でも謝罪しなさい!減るわ!!」
「それは同感ね。ライル様なら見て、触って欲しいけど。」
「じゃ、私の勝ちね。殿下…私の身体全部見たの……何回か。」
「ええ!!まさか、有紗やレイも!?」
優衣が詰め寄り、涼子が顔を赤くする。テレサ自身も赤くなっていた。
「隊長は分からないけど…有紗の身体は全部見たらしいわ。でも、未遂なの。私達、二人共。」
「あ、あの子も!?顔に似合わず大胆な……よし、今度私もベッドで待ち伏せを…」
「やめなさい、はしたない!」
「じゃあ、お姉ちゃんも一緒に見せてあげましょう。」
「それなら、有紗は今無理だから…隊長に私も加えた4連打は?」
「……ライバルが二人も入るのは気に入らないけど良いわね!」
「違う!!そして、何考えてるのよ!?」
あれだけの良い身体を見せられて未遂……ここまで奥手だと、生まれつきそういう感情が無いのかと疑ってしまいそうだ。が、それよりも………
「あんた達、場所弁えてよ。ここ店の中よ?」
心なしか……自分がこの四人の中で一番まともな気がする。
とりあえず、店員や周囲の客に謝り、場所を変えようと外を歩いていた時………
「待ちなよ。」
目の前に、いかにもガラの悪そうなブリタニア人の男が四人ほど現れた。いずれもクリスタルよりも年上だろう。
「イレヴンが租界をうろつくたぁどういうつもりだ?」
取り巻きの一人が優衣と涼子を交互に睨み付ける。
「この子達、連れなの。問題があって?」
クリスタルが前に出る。が…男達はクリスタルだけでなく、三人を上から下まで見ている。
「いい女だねぇ…俺らに付き合ってくれるなら許してやるよ?」
テレサはその言葉に怒りを覚え、前に出た。
「ブリタニア人とイレヴンが一緒に租界歩くのに、あんた達の許可がいるの?」
「なんだと?俺の親父は貴族だ…つまり、租界は俺の領地なんだよ。」
なんという無茶な理屈……テレサが知る限りでは『ユーロ・ブリタニア』にもここまで酷いのはいなかった。
「あぁ……私の主君様が嫌いなタイプだわ。」
「何?」
すると、クリスタルの表情が硬くなり、バッグから身分証を出す。
「ブリタニア帝国第八皇子、ライル・フェ・ブリタニア殿下が親衛隊クリスタル・ウィスティリアよ。貴族ならば、その意味が分かるはず。どきなさい。」
「だ、第八皇子殿下の?」
男達が怯んだ。流石に、皇族の威光は効くようだ。
「は!偽物だ!こいつらは皇族の部下を語る不届き者だ!!身の程知らずめ!罰として、その身体を俺達に捧げろ!!」
駄目だった。取り巻きの男達が優衣と涼子の腕を掴むが……
「それじゃ…正当防衛成立ね。」
クリスタルが男の足にヒールの踵を叩き込んだ。リーダーが足を押さえて、悶絶した姿に取り巻きが目を奪われた隙にテレサも自分の腕を掴んだ男の顔面に拳を入れ、優衣の腕を掴んだ男にクリスタルが膝蹴り、テレサが涼子を抑えた男に踵落としを喰らわせた。
「2対2程度ならね……でも、流石『四大騎士団』。良い蹴りね。」
「そっちこそ…親衛隊は伊達じゃないわね………」
が、優衣と涼子は呆然としていた。
「せっかく、ライル様がスプレーとか用意してくれたのに。」
「使う暇…なかったわね。」
落ち込む二人に、クリスタルが軽く肩を叩く。
「気にしなくて良いわ…ああいうどら息子だと逆に親の力使って、傷害罪扱いにするから。あ…それと、警察に連絡しておきましょ。政庁にいる殿下にまで文句言われたら、面倒だし。」
絡まれてから、一時間後……四人は解放された。ウィスティリア家の名前とテレサの実家が『ユーロ・ブリタニア』の貴族であることが聞いたようだ。
「傍流でも貴族は貴族、か。捨てられた子でも効果あるとは。」
「恨んでるの?」
優衣の質問に、テレサは上手く答えられず「過去形で。」とだけ答えた。
「さて…政庁に戻りましょう。」
「そうね…二度目はゴメンだわ。」
クリスタルに涼子も同意し、四人は政庁に戻った。と、テレサはいつの間にかイレヴンと当たり前のように会話している自分に気付き、内心驚いていた。
ユフィも…あの人とこういう事したかったのかしら?
|
|