[37677] コードギアス 追憶のエミリオ MEMORY−9 披露宴 W (了) |
- JIN - 2017年09月16日 (土) 14時35分
様々な波紋を起こしつつ、淡々かつ粛々と進む祝宴。
広間の奥の一段高い壇上。
そこに居並ぶリングス関係の六人。
この度の紛争についての各方面の協力への感謝の辞がリーダーであるローランスから述べられ、それに対する答辞なども行われていく。
やがてそれも済み、穏やかな歓談の時間。
それぞれに分かれた、三つの組が挨拶に回り、華やいだ雰囲気を大いに湧き立てる。
特に大きな輪は美女と少年の組。
多くの女性が特に群がり、顔は美女、目は少年に流しながら他愛も無い話題が花開く。
やがて面白くもなさげに、少年に対し向こうに行けとばかりの顎をしゃくる美女。
逆らいもせず、壁際の休憩用の椅子に向かって座る少年。
やがて窮屈だとばかりに、首筋の服の止め具を外し大きく開く。
ふーという仕草も含め、それを見ていた女性たちの多くから嘆息が漏れる。
ただしその主人の目を気にしてか、近づけるような女性は一人もいない。
そう。女性は。
壁際に向かって歩み寄る一人の青年貴族。
一見すれば、よくあるグラスを勧める風情にも見える。
しかしその口から放たれた言葉は。
「おい。遂にここまで御出世というわけか。この淫売」
「へ?」
見上げる少年。
その目に映る憤怒に満ちた顔。
「今度は伯爵様を篭絡して、その『公式愛人』か。いい御身分だな」
「?」
「いいか。俺の妹はな。お前に捨てられたと思って先日自殺した。お前に孕まされた赤子を先に絞め殺してな…」
それに対し、意味が分からないとばかりに、キョトンとした表情を浮かべる少年。
しかしやがて合点が行ったとばかりに。
「ごめんねえ。キミの相手までは出来なかったみたいで」
「ふざけるな!」
手に持ったナイフで切り付ける青年!
沸き起こる周囲の悲鳴!
しかしその次の瞬間に相手は消え、身体はフワリと一回転!
そのまま腹這いに押さえ込まれ、両腕を後ろに固められる!
「す、すごい!」
「見たか?」
「いや。まったく見えなかった」
「あ、あれがナイトオブリングス…」
「やはり本当か。あのゼロに一太刀浴びせたというのは…」
周りの喧騒を他所に、後ろ手を固めながら、押さえ込んだ相手の耳元に囁く少年。
「ねえ。どっち…? 『したい』? 『されたい』? どっちがいい…?」
聞くだけで取り込まれそうな細い声。首筋にかかる甘い吐息。
そして全身を貫く快感と…恐怖!
「は、はなせ! この魔物! 化物ー!!」
激しく暴れる青年。
やがてその目に映るドレスの裾とハイヒール。
必死で見上げる先に映る、豪奢な美女。
「あ、アリューシア伯爵…」
「…まあこういう奴だ。恨みは山ほどだろうし、仕返ししたいのも当然だろう…だがな!」
響く鈍い音。
「ウガー!!」
顔を抑え転げ回る青年。
鮮血に染まるカーペットの表面。
そしてハイヒールの先端。
「このような場でそれを行うのは! この私に対する無礼でもあるという事が分からんのか!?」
顔を真っ赤にしながら衛兵に連れ出される青年。
それを残念そうに見送る少年。そしてそれら全てを忌々しげに見つめる美女。
そしてそれを更に離れた場所から眺める四人。
「あーあ。お気の毒と言いたいところだが、まあこの場合は殺されずに済んで良かったというべきかな」
「冷たいな。ローランス」
「おいおい。こういう場は『政治』という名の一種の戦場だぞ。アレウス。どんな理由と事情があろうと。要するにあの御仁はその一番肝心な事が分かってなかったというだけの話だ」
「そういえば『ドレスは社交界の戦闘服』と言った人も昔いたというな」
「ああ。まさにそれだな。リアの場合は」
「いっそ騎士服の方がマシか?」
「そうだなあ」
互いに苦笑し合う青年二人。
それに対し、それぞれに反応を見せるドレスの女性二人。
一人は困惑気に。
そして一人は無表情に。
やがて荒々しく壁際の椅子にドッカリと座る美女。
これ見よがしに長い美脚を大きく組み、鮮血に染まったハイヒールの先を少年に突き出す。
歩み寄り、膝を突き、赤いハイヒールの先に向かって舌を出し、這わせ始める少年。
嫌がりもせず、躊躇もせず、まるで犬か猫かのように。
それに対し怖気を奮うかのような反応を見せる周囲。
そしてそれらに対し挑戦するかのような視線を投げ返す美女。
まさに文句あるかとばかりに。
それを見ながら改めて大きく溜め息を付く青年。
その時近くに歩み寄る一人の衛兵。
「どうした?」
「大公閣下から至急の報です」
渡されたメモをさっと読む。
(西方動く。そちらは最後まで式を全うせよ)
相棒にメモを見せる青年。
大きく頭を振る相棒。
いかにも。遂に来たなという感じで。
『後世に言う「ヴォルガ戦争」の発端についてもまた多くの異論がある。ポーランド側の謀略。ヴェランス大公家側の謀略。そしてそれらとはまた違う勢力からの謀略。但しはっきりしている事は、その戦いはベラルーシ方面からの北ユーラシアへの侵攻によって始まったという事である」
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